マレーシアの港町・ムラカにある謎のモノレールのレポートです。
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ムラカってどこ? ムラカ は、マレー半島南部に位置する人口45万人あまりの港湾都市です。マラッカ海峡に面した古くからの東西の交通の要衝であったことから、古くから港町として栄えました。1511年にポルトガルに占領されて以降は植民地支配を受け、英国植民地となってからはシンガポールに貿易港としての役割を奪われてしまった歴史をもちます。2008年には歴史的な街並みが世界遺産に登録されました。
かつての帆船を模した博物館 今回紹介するモノレールは、マラッカ運河沿いに内陸へ少し進んだ場所にあります。高級ホテルやリバークルーズもある観光客向けエリアですが、モノレールの始発駅は観光客向けエリアのややはずれに位置します。 なんだか最初から嫌な予感がしてきましたね……。
モノレールに到着 私が取った安宿は市街地南部の海に近いエリアだったので、20分ほど歩いてモノレールに到着しました。からっとした心地の良い暑さ、青空の下にモノレールの白い軌道が映えます。
モノレールに到着 跨座式モノレールの軌道と橋脚は鉄骨製のようです。一方通行の環状モノレールなので単線となっています。電力供給等のためと思われる電線が4本、環状線路の内側に設置されています。
ムラカモノレール 線路を内側から モノレールの始発駅に進みます。なんだか線路脇に崩れかけの柵があって不気味です……。 観光客向けモノレールの沿線とは思えません。
奥はショッピングモール さらに進むと、「モノレールテーマパーク」なる施設の入口に到着しました。入場料金や営業時間が書いてあるようですが、マレー語が読めないので何が書いてあるのかよく分かりません。後で駅で入手したパンフレットに書いてあった英語によると、世界遺産登録を記念して壮大な観光プロジェクトであるムラカモノレールを2010年に導入したこと、モノレールの軌道は地上6mの高さにあり速さは時速8km/hで一周25分であること、夜景 が特にきれいだと書いてあるようです。Wikipediaによると総工費はRM 15.9百万(約400億円)だったそうです。
ちなみに、「入口」とかいてあるのは日本語ではなく中国語です。マレーシアは華僑の人も多いので漢字を目にする機会もそれなりに多く、また(調べてもよく分からないのですが)どうもモノレール自体が中国製のようなのでその関連もあるかもしれません。
モノレールテーマパーク 入場料金など モノレールテーマパークの中には何があるのでしょうか?
モノレールテーマパーク内部を俯瞰 写真右方向が先ほどの入口 なんと、ただの廃墟 でした。そういえば、上の写真で派手にペイントされていた入口の建物もペイントされていた部分以外はすべて廃墟。先ほど書いてあった入場料金や営業時間はモノレールのもののようです。
昼間だったからよかったものの、夕暮れ以降は絶対に行きたくない場所ですね。あいや、夜景がきれいなんでしたっけ……。 度肝を抜かれたところでモノレールの始発駅に到着します。なお、ここまでの道のりで他の観光客とすれ違うことは一度もありませんでした。
Tun Ali駅からモノレールに乗車 廃墟の片隅にこぎれいなモノレール駅が建設されていました。モノレールテーマパークとして再開発された一角に建設されるはずだったのでしょうが、駅舎からは先ほどの廃墟が丸見えです。
Tun Ali駅 乗車する前に、駅の横にモノレールの車両基地があったので少し観察してみます。車両基地への分岐器は、モノレールとして一般的な軌道自体が左右に動くタイプです。信号機と思われる設備も確認できます。
モノレール車両基地入口 車両基地には建屋とクレーン、車両検査用の足場が設置されています。建屋は現地の気候を反映してか、大阪駅の大屋根を思わせる解放的な構造となっています。大阪駅と同じくスコールの時は中にまで吹き込んでくるかもしれません。階段を登れば簡単に侵入できそうなのは気のせいと信じたい。
モノレール車両基地 救援用トロッコと予備車両 モノレール予備編成の集電装置 車両基地内には、車両が立往生した際の救援用と思われるトロッコと、モノレールの予備編成が留置されています。Google翻訳で和訳したマレー語版Wikipediaによると、開業直後の2010年と2011年に車両がドア故障のため空中で立往生し乗客が車内に閉じ込められ、再発防止のため救助用車両が用意された そうで、この車両がそれなのだと思われます。この事故の影響でムラカモノレールは数年間運行を停止していましたが、救援用車両導入などの対策を施したとして2017年から運行を再開しています。
さて、いよいよモノレールに乗車します。乗る編成は先ほどの予備編成と違ってカラフルに塗装された3両編成です。朝10時から夜11時まで(金・土・日曜・祝日は夜12時まで)、30分間隔で運行されているようです。
今回乗車するモノレール(写真は降車後に撮影) 駅に入ると階段があり、切符売り場は2階、プラットホームは3階にあります。切符売り場では、突然の来客に慌ててあくびを嚙み殺したお姉さんに"One adult, please"と片言の英語でチケットを入手。大人外国人料金でRM 20(約500円)、現金のみでした。マレーシア国民でもRM 15であり、朝食のナシゴレンがRM 5.5だったので目の玉の飛び出るような高額です。
Tun Ali駅入口 ムラカモノレール路線図 モノレールのチケット。"Themepark & Studios"と書いてあるが、前述の通りそのようなテーマパークは存在しない。 駅でモノレールのパンフレットを入手しました。どうやら駅が始発駅含め3か所あるようです。下の方には"Indoor Theme Park"(屋内テーマパーク)、"Outdoor Theme Park"(屋外テーマパーク)などさすがに仮称であることを願いたい名前の観光施設が1から13まで列挙されていますが、上の地図にはどこにも対応する番号が書いてありません。よく見ると、これらは今後に向けての"Development Proposal"(開発計画)らしく……。計画が順調にいくことを祈るばかりです。
モノレールのパンフレット(表面) モノレールのパンフレット(裏面) 発車の時間になったので、係員の案内で3階のホームへ。乗車前にビデオを流すような儀式が予定されていたのかモニターと椅子が用意されていましたが、特にそのような儀式はなくモノレールに乗り込みます。なお、やはり他に乗客はいませんでした。
プラットホーム モノレールに乗車 乗車の際に写真を撮りそびれたので上記は降車の際の写真です。
あらためて車内に乗り込みます。窓の外の景色がよく見えるよう座席は背中合わせで配置されています。モノレールは自動運転に対応しているようですが、前方に乗務員席が用意されていて係員が乗務していました。前述した立往生もあり現在も自動運転機能が使用されているのかは定かではありません。運転台にはドア開閉スイッチ、自動運転の出発・停止スイッチ、手動運転のスイッチ、緊急停止スイッチなどが設置されていました。
モノレール車内 モノレール運転台 モノレールで周辺を一周 動き出すとすぐに、マラッカ運河を橋で渡ります。車内からはリバークルーズの船がたくさん停泊しているのが見えます。さすがに高架モノレールだけあって眺めは非常に良かったと記憶しています。
マラッカ運河を渡る 川を渡ったところでHang Jebat駅に到着します。人気のリバークルーズの最寄り駅で、観光客の乗降があるかと思いきや……。なんと通過。 実は、このモノレールで営業しているのはTun Ali駅のみで、他の駅は全駅通過扱い となっているのです。
Hang Jebat駅 Hang Jebat駅を出ると、モノレールは運河沿いを進みます。と、ここで自分ひとりしかいないはずの車内で嫌な気配を感じました。振り返ると、なんと車内を蚊が飛んでいる ではありませんか……。こんなところでマラリアにでもかかったらたまりませんが、窓が開かないモノレール車内ではどうすることもできません……。蚊と格闘しながらTun Ali駅に戻るのを待つばかりです。
運河沿いを進む しばらくするとHang Tuah駅が見えてきました。The Shoreという高級ホテルとショッピングモールの複合施設の最寄り駅ですが、ここも通過。というか、観光地を通過して廃墟の横の駅だけ営業しているの何なのでしょうかね……。
Hang Tuah駅 こちらも通過 さらにモノレールに揺られること数分、ようやくTun Ali駅に戻ってきました。階段を下り、駅の外に出ましたが結局他の観光客の姿を目にすることはありませんでした。
Tun Ali駅に到着 観光開発を名目にハコモノを建設し、利用の低迷に悩まされるのは1960~90年代頃の日本でも散見された光景です。もしかすると今後行われるはずの第二期・第三期再開発で一発逆転が起こるのかもしれませんが……。なんだか気味の悪い体験でした。
途中に「モノレールが中国製」と書きましたが、最近話題となっている中国の新興国に対するインフラ投資の一環か、と言われると私は違うと思います。モノレールの建設が始まった2008年は中国の一帯一路構想の発表の5年も前ですし、モノレールに中国資本が投入されているという話もインターネット上には全くありません。むしろ、もし当時中国資本の大規模な投資があったならこのような中途半端な観光開発で失敗することはなかったのではないかとさえ思います。
それにしてもこのモノレール、今でも営業しているのでしょうか。記事執筆時点でWikipediaには特に廃止されたという記載はありませんが、すでに運営会社が赤字に耐えかねて運行をストップした という報道があり、公式Facebookページもリンク切れでもう運営が半ば放棄されてしまったのかもしれません。
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