2020年3月廃止となる日本最後の石炭貨物列車の入換作業を観察してきました。
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日本最後の石炭貨物列車
1872(明治5)年に新橋~桜木町間が開業して以来150年近い日本の鉄道の歴史のなかで、石炭輸送は重要なキーワードでありました。北海道では、1880年の官営幌内鉄道の開業以来数多くの鉄道路線が建設されましたが、その多くが石炭輸送のために造られたといっても過言ではありません。大規模な炭田をかかえる北海道や北九州、常磐地域では鉄道路線が網の目のように張り巡らされ、岩見沢や直方、内原(未成)などに貨車を仕訳けるための大規模な操車場も設置され、明治から昭和前半にかけての日本の工業生産をエネルギー面から支えていました。
1950年代から60年代にかけてのエネルギー革命で、石炭は最重要なエネルギー源としての役割を石油に譲りました。また、国内炭鉱は資源の枯渇や人件費の高騰、相次ぐ事故や労働争議に悩まされ、安価で良質な輸入石炭に押されて次々と閉山しました。現在でも国内で操業している炭鉱はすべて北海道に所在し、わずかに指で数えるほどです。国鉄の貨物輸送の衰退もあり、石炭貨物列車の多くも1980年代までに姿を消していきました。
本ページ執筆時点で、国内に現存する石炭を輸送する貨物列車は、鶴見線扇町駅と秩父鉄道三ヶ尻線三ヶ尻駅を結ぶ列車のみです。この列車も需要家の事情により2020年3月13日をもって廃止になるということで、今回入換作業の見学へ行ってきました。
調査翌日の2020年2月26日をもって運転終了となったようです。失礼いたしました。
列車は20両編成で、鶴見線扇町駅を発車すると浜川崎駅、南部支線、武蔵野線、高崎線を経由して熊谷貨物ターミナル駅に到着します。ここで一夜を明かし、翌朝10両2編成に分割され、午前と午後の2回に分けて三ヶ尻駅に隣接する太平洋セメント熊谷工場専用線で石炭を取り卸します。なお、かつての石炭輸送は山で産出した石炭を港へ運ぶのが中心でしたが、この輸送では扇町の三井埠頭に海運で届いた石炭を、内陸部の太平洋セメント熊谷工場へ輸送しているというのが興味深いところです。
今回は、熊谷貨物ターミナル駅から三ヶ尻駅へ向けて発車した列車から観察をはじめます。今回観察する石炭輸送列車の時刻は下記の通りです(貨物列車の時刻は貨物時刻表2019を参照、入換作業の時刻については観察日の実測)。
駅 | 時刻 | 熊谷(タ) | 9:23 |
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三ヶ尻 | 9:31 |
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専用線へ押し込み(1回目) | 9:30~40 |
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専用線から引き出し(1回目) | 10:10~20 |
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専用線へ押し込み(2回目) | 10:30~40 |
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専用線から引き出し(2回目) | 11:05~15 |
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三ヶ尻 | 11:26 |
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熊谷(タ) | 11:34 |
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ちなみに、上記は午前の列車の時刻ですが、午後の列車(熊谷(タ)12:00発、折返し三ヶ尻14:08発)の入換作業もほぼ同様だと思います。
熊谷貨物ターミナルを発車し、三ヶ尻駅へ
三ヶ尻線沿線の踏切で待機していると、石炭貨車をひきつれた貨物列車がやってきました。三ヶ尻線は貨物専用の路線であり定期運転されているのは1日2往復のこの石炭列車のみのため、踏切手前で停止している自動車の運転手も珍しそうに列車を眺めていました。
この701列車は貨物時刻表では秩父本線の武川行となっていますが、実際には三ヶ尻までしか運転されない日が多いようです。
三ヶ尻駅での入換作業(1回目)
三ヶ尻駅は、隣接する太平洋セメント熊谷工場の専用線に発着する貨物を取り扱っています。今回紹介する石炭のほか秩父鉄道沿線で産出する石炭が、貨車を何両も連ねた貨物列車で運ばれてきます。かつては貨車でセメントを発送しており、関東各地の需要地へ列車が運転されていました。
貨物列車の撮影を終えて三ヶ尻駅に来ると、既に入換作業が始まっていました。10両編成の貨物列車のうち5両が分割され、専用線へ移動するところです。
到着時点ですでに編成は着発線(3番線)から武川方に引き出されていて、推進運転で専用線へ入っていくところでした。なお、秩父鉄道はディーゼル機関車を所有しておらず、三ヶ尻駅では入換用のスイッチャーも使用していないようなので、構内線路はほとんど電化され入換も電気機関車により行われます。
専用線内では30分ほどの間に貨車に積載した石炭を取り卸す作業が行われます。荷役作業の詳細は外部から観察できません。荷役作業を行っている間に機回し作業が行われ、機関車が反対側に付け替えられます。
石炭貨車が出てくるのを待っている間、石灰石用の空車貨車を秩父方面へ返送する貨物列車が発車していきました。やや小型の貨車ながら堂々の20両編成、終点影森駅まで約2時間の旅路です。
石灰石列車の出発後まもなく、専用線から石炭貨車の編成が出てきました。
荷役を終えた貨車は着発線(5番線)に移動します。直後、秩父方面から石灰石を満載した貨物列車がやって来て専用線へ吸い込まれていきました。なかなか忙しい駅です……。
線路上に多少こぼれても気にならないのか、石灰石がホッパーの高さを超えて山盛りに積載されています(無害な石灰石とはいえ、こぼれた石が乗客や建物に当たったら危険なようにも思えます)。
三ヶ尻駅での入換作業(2回目)
ここまでで5両分の荷役が終わり、引き続き残り5両の荷役が始まります。まず機関車が単機で移動し、3番線に停車中のこれから荷役を行う編成に連結されました。
続いて、貨車が武川方に引き出され、先ほどと同様専用線内へ押し込まれていきました。
再び、30分間の荷役作業です。この間、先ほど到着した石灰石貨車が荷役を終えて影森駅へ戻っていきました。
しばらくの後、貨車が専用線からもどってきました。推進運転で着発線へ向かい、既に荷役を終えて5番線に停車中の貨車に連結します。
貨車の連結作業ののち機関車が切り離され、11:23の熊谷(タ)方面への出発に向けて反対側へ付け替えられます。これで一連の入換作業が終わり、11:23には熊谷(タ)へ列車が出発します。
熊谷貨物ターミナル駅
熊谷貨物ターミナル駅へ移動してきました。熊谷貨物ターミナル駅の秩父鉄道着発線は、JRコンテナホームのすぐ脇にあります。到着時点ですでに列車は駅に到着していて、午後の運転に備えた入換作業も終了していました。
着発線には石炭を積載した10両編成の貨車が停車中です(前夜に熊谷貨物ターミナル駅に到着した20両編成のうち、午前の列車で三ヶ尻駅へ運びきれなかった分)。午後の運転に備えて、すでに三ヶ尻方に機関車が連結されています。なお、三ヶ尻駅から戻ってきたはずの貨車は見当たりませんでした(少し離れたJRの着発線に移動してしまったのでしょうか?)。
積み荷の石炭は、先ほどの石灰石とはうって変わって控えめな積み方でした。
(おまけ)扇町駅での入換作業
ここまでで秩父鉄道三ヶ尻線での石炭列車の入換作業のレポートは終わりです。ここからは、おまけとして以前観察したJR鶴見線扇町駅での入換作業をレポートします。到着時、すでに埠頭で石炭を積み込んだ貨車が三井埠頭専用線に繋がる線路に留置されています。
扇町駅には、熊谷貨物ターミナル駅を早朝に発車した空車が午前11時過ぎに到着します。列車の到着とともに係員が詰所から出動し、「ネコの楽園」として有名な扇町駅ににわかに緊張感が漂います。
すぐさま機回しののち、推進運転で三井埠頭専用線方面へ押し込まれていきます。
機関車が切り離され、石炭を積んだ貨車の編成に連結されました。
石炭を積んだ貨車が扇町駅着発線へ引き出されます。このあと列車は12:05に扇町駅を発射し、熊谷貨物ターミナル駅へ向かいます。
扇町駅は過去には昭和電工などの専用線も接続されていて物流のハブとしてにぎわいましたが、現在設定されている定期貨物列車はこの石炭列車のみです。石炭貨物列車の廃止に伴い扇町駅の貨物取扱いも全廃か……と思いきや、最近になってリニア中央新幹線工事の残土輸送のための貨物列車が、臨時ながら1日3往復設定されたそうです。往年の盛況とはほど遠いながら、扇町駅はまだまだ活躍する姿を見せてくれそうです。
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