総合車両製作所横浜事業所は、神奈川県横浜市金沢区にある鉄道車両工場である。今回は同所構内と、そこから伸びる専用鉄道の配線を調査した。
総合車両製作所は、新製される車両はもちろんのこと、そこにある線路でも話題になります。構内はほぼ全線が三線軌になっている上に、隣接する京急本線金沢八景駅から京急逗子線(軌間1435mm)を通りJR線(軌間1067mm)へ車両を搬出するために関係線路も三線軌となっているのです。三線軌同士が分岐する分岐器、三線軌の狭軌側が入れ替わる全国でも珍しい分岐器など、まさに分岐器の博物館。ただし、現地に行ってみると思わぬ誤算がありました……。
総合車両製作所横浜事業所
Googleマップで地図を見る工場北側 10:48
京急沿線にある工場ということで、今回は京急で現地に入りました。余談ですが、そもそも大手の鉄道車両メーカーで私鉄沿線に工場を構えているのは総合車両製作所だけです。総合車両製作所はJR東日本グループ傘下なのに、唯一JRの線路と直接接続していない事になります。さらに、同社の前身は東急車輛製造ですが、この工場から東急線に車両を運ぶためには京急線を通り、更にJR線内を甲種輸送しなければなりません。なぜこのような奇妙なことになったのか、今まで不思議に思っていました。
その理由は終戦直後に遡ります。東急車輛製造の前身は、旧東京急行電鉄(京急を含め関東西部の大半の私鉄を戦時買収していた、いわゆる大東急)が開設した車両修理工場でした。旧海軍工廠の敷地を大東急が買い取って電車の戦災復旧を始め、1947年に東京急行電鉄から京浜急行電鉄などが分離されてからも新生東京急行電鉄が筆頭株主であり続けた、ということです。ここで京急が筆頭株主になっていればこのようなややこしいことにならなかったのかもしれません。
閑話休題。まず、構内北側から中を覗こうと思いました。思いましたが、壁が高すぎて何も見えません。後から思えば、ここで「何かおかしい」と気づくべきだったのかもしれません。たまたま金網の間から線路が垣間見えました。
三線軌が2本並んでいて、渡り線があります。簡単に書きましたが、三線軌同士の渡り線はトングレール(分岐器の動くレール)を10箇所持つ複雑な構造です(詳細は後の写真を参照)。なんとか近くで見てみたいものです。
ひとまず、壁に沿って西へ向かいます。しかし、相変わらず壁は高いままでした。
古いアパートか学校のような建物が見えます。その下に車両が1両見つかりました。2016年春運行開始予定の「GENBI SHINKANSEN 現美新幹線」に転用されると思われるE3系です。いまだに「ありがとうこまち」のステッカーが貼られているのを見ると、まだ改造は始まっていないようですね。
この先も高い壁に阻まれ、工場の中を覗くことはできませんでした。裏山に登られれば工場内を一望できそうです。
工場東側 11:04
いったん戻り、気を取り直して今度は工場東側の道路を進みます。何か見つかればいいのですが……。
この建物が総合車両製作所の本社です。機関車の動輪を模したデザインの、比較的新しい建物でした。
隣には、J-TREC労働組合の建物があります。……看板のフォントが会社のロゴと同じです。
関連企業の建物です。工場の設備はこれらの奥にあり、全くうかがうことができません。
やっと架線が見えました。ちょっと期待してみると、車両が見えてきました。
元東急7200系です。なんでも、東急から一旦上田交通に譲渡された後、新車に置き換えられて東急車輛に再譲渡されたのだとか。現在は牽引車として使われているそうです。
スイッチャーは神奈川臨海鉄道の譲渡品だそうです。
低速でしか電車が通過しない工場内とあって、電化柱は簡易なものが使われています。電化柱に取り付けられている標識は電車線区分標でしょうか。
工場建屋には饋電入切標がついています。E6系など新幹線車両も製造しているため、なんと直流と交流の2種類設置されています。
工場正門前 11:15
横浜事業所の正門まで来ました。ここには専用鉄道の入口も併設されています。
三線軌条の専用鉄道から側線が分岐します。分岐器の数が2に対して、トングレールが10本、クロッシングが4箇所あります。保守はかなり面倒だろうと思われます。現在日本で三線軌同士の分岐器は本線上から一掃されていますので、このような分岐器は大変珍しいものです。
構造をよく見てみると、2つのレールが合流する部分とは別に標準器用レールと狭軌用レールが交差する箇所にもトングレールがあります。転換装置もこれにあわせて2台設置されています。分岐器外方には転換方向を示す赤と青の回転灯があり、事故を防いでいました。
この写真の後ろに総合車両製作所横浜事業所の正門がありますが、写真は撮れませんでした。なぜなら、「完成車両の撮影は禁止」という看板がいたるところにはられ、少しでもカメラを向けようものならたちまち拡声器で注意されるからです。いったい過去に何が起こったのかは分かりませんが、確かにプレス発表前の車両が撮影されれば問題になりそうです。困るのは線路を撮りに来た人で、目の前に4台もある三線軌条分岐器を記録に残すことができません。迷惑な話です。
文章で構内の様子を説明しますと、線路は3本に分かれ、うち2本が建屋の中に入り、1本は先程の東急7200系が留置されている線路につながります。それとは別に左側(西側)方向に曲がる線路が2本ありました。なお、建屋内の左側にE233系湘南色、右側に京成3000系が停車していました。軌間が異なるこの2編成が並んで停車しているのも、車両製造工場ならではです(日暮里あたりでも見られるかもしれませんが……)。
実は上の正門の写真を撮影している時も、拡声器で注意を受けました。完成車両が写るとは到底思えないのですが。
専用鉄道は道路をわたって京急の線路へ向かいます。踏切はめったに使用されないため、レールの溝はゴムで埋められていました。
京急線との合流地点の分岐器です。先程の分岐器ほどではありませんが、クロッシング部を2つ持った特殊分岐器です。狭軌の部分だけ線路が光っている理由は次回明らかになります。
標準器用レールと狭軌レールの間の隙間は300mmに満たないため、クロッシングと隣のレールが接触しそうになっています。
なんとクロッシングのすぐ隣には異形継ぎ目(大きさの異なるレールをつなぐ継ぎ目)が。たまらない。
転轍表示器があります。それ自体は全国どこでもあり珍しいものではありませんが、注目すべきは合成枕木(分岐器などの木枕木を取り替えるために開発された合成樹脂製の枕木)の上に設置されていることです。なんとも不釣り合いな気がします。
次回はここから逗子駅までの専用鉄道を紹介します。
※ 写真は全て踏切または公道などから撮影。
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