新幹線の「駅以外」の停車場について

新幹線の「駅以外」の停車場について

はじめに

始めに断っておきますと、本記事は何かを解説する類の記事ではないかもしれません。どちらかというと、「調べてみたけどよく分からなかったのですがとりあえず当サイトはこのような立場で行きます」という意見表明という性質も強い記事となります。とはいえ、調査を重ねてなんとか記事にまとまりそうな段階になったためよろしければ最後までお付き合いください。

記事の内容に入る前に、まずは停車場とは何かについて振り返っておきます。「停車場」という用語の定義は下記のように法令に定められています。

(定義)
第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
  1. 七 駅 旅客の乗降又は貨物の積卸しを行うために使用される場所をいう。
  2. 八 信号場 専ら列車の行き違い又は待ち合わせを行うために使用される場所をいう。
  3. 九 操車場 専ら車両の入換え又は列車の組成を行うために使用される場所をいう。
  4. 十 停車場 駅、信号場及び操車場をいう。
鉄道に関する技術上の基準を定める省令

このように、「停車場」は駅、信号場、操車場の総称となります。信号場の例としては篠ノ井線桑ノ原信号場(列車の行き違いをする例)や鹿児島本線太宰府信号場(列車の待ち合わせを行う例)があり、操車場の例としては高崎線高崎操車場や東海道本線宮原操車場があります。

在来線では信号場、操車場の存否はほぼ明らかなのですが、新幹線において信号場、操車場の存否を判断するのがかなり難しいということはあまり知られていません。新幹線は大半の区間で車内信号式のATCが採用されているため、場内信号機・出発信号機の存在を目視で確認することができないこと、運転台を客室から除くことができないため実際の運転取扱いがどうなっているか見ることができないことが理由として挙げられます。調査すると、いくつかの車両基地が付近の駅から独立した停車場として扱われているらしいことが浮かび上がってきました。

ところで、「独立した停車場」である車両基地と駅構内の車両基地では何が違うのでしょうか。例えば、東北新幹線では東京新幹線車両センターの線路は上野駅とは独立した「上野第一運転所」という停車場として扱われている一方、小山新幹線車両センターは小山駅構内の扱いとなっています。両者の違いは概ね次のようになっています。

「独立した停車場」である車両基地
最寄り駅への出入庫は回送列車
最寄り駅とは別に独自の場内・出発信号機(ATC区間ではそれに相当する進路)をもつ
独立した連動装置が設置されている
「駅構内」である車両基地
最寄り駅への出入庫は入換または構内運転
最寄り駅の構内線路として、場内・出発信号機が設けられた着発線がある場合がある
大規模な基地では独立した連動装置が設置されることもある(尾久車両センターなど)

本記事では、X(旧Twitter)などでいただいた情報をもとに文献などで可能な限り新幹線の駅以外の停車場の存否と名称を調査してまとめました。なお、記事内容に誤りや不足がありましたらメールまたは記事下部のフォームにてお知らせいただけますと幸いです(内部情報のリークについては記事内で取り扱えない場合がありますが、リークを元に公開文献で裏が取れた場合は記事に反映させていただきます)。

駅以外の新幹線の停車場まとめ

下でこまごまと色々書いていますが、現在把握している限りで駅以外の新幹線の停車場をまとめるとこのようになります。とりあえずこのリストが正しいものとして、配線略図にもこの名称で停車場を記載することにします(本記事執筆時点で反映できていないページもあります)。場合によっては、車両基地の名称(東京新幹線車両センターなど)と停車場の名称(上野第一運転所など)を併記することになります

路線停車場名位置備考
東海道新幹線東京第一車両所東京~品川間品川駅開業前時点での存在を確認
栗東信号場米原~京都間
大阪第一車両所京都~新大阪間
山陽新幹線鞍手信号場小倉~博多間
九州新幹線博多総合車両所博多南~新鳥栖間運行管理は東海道・山陽新幹線のCOMTRAC
熊本総合車両所熊本~新八代間
東北新幹線上野新幹線第一運転所上野~大宮間
鷲宮信号場大宮~小山間
仙台総合車両所仙台~古川間
盛岡新幹線運転所盛岡~いわて沼宮内間改称前の「盛岡新幹線第一運転所」が停車場として存在していたのを確認
上越新幹線新潟新幹線第一運転所新潟駅東方
北陸新幹線長野新幹線運転所長野~飯山間
白山総合車両所金沢~小松間
北海道新幹線新中小国信号場青森~奥津軽いまべつ間
湯の里知内信号場奥津軽いまべつ~木古内間

東海道・山陽・九州新幹線

東海道・山陽・九州新幹線では、東京第一車両所、栗東信号場、大阪第一車両所、鞍手信号場、博多総合車両所、熊本総合車両所の6つの停車場が存在すると思われます。

東海道新幹線配線略図(抜粋)
東海道新幹線配線略図(抜粋)
東海道新幹線配線略図(抜粋)
東海道新幹線配線略図(抜粋)

東京第一車両所なる停車場の存在は雑誌記事で確認できます。ただしこの記事は品川駅開業前であり、品川駅開業後の取扱いについては正確な情報を確認できていません。後述する新幹線大阪指令所の画像から「東京第一車両所」なる停車場が現在も存在することは確実ですが、品川駅横の東海道新幹線上下本線から回送線が分岐する部分が品川駅構内か東京第一車両所構内かは不明です。

図-3で示すとおり、東京~7K500Mの間には途中に東一両があるため、東京~東一両の放送と東一両~新横浜の放送を行うこととした。

U型ラジコールによる作業時間帯開始の情報連絡について 」大石哲弘 日本鉄道施設協会誌1992年7月号

また、電気鉄道31巻11号所収「凧害について」(小林哲尚著)掲載の「昭和51年度駅間別発生状況」には、東京や新横浜などの見慣れた駅名に交じって「東一運」「大一運」「博総車」の文字があり、国鉄時代からこれらが停車場として扱われていることが分かります。

東海道新幹線配線略図(抜粋)
東海道新幹線配線略図(抜粋)

栗東信号場、鞍手信号場はJTB刊『停車場変遷大辞典』に記載があります。

栗東信号場、大阪第一車両所は雑誌への寄稿にて「駅」と明言されています。

関西支社は,東海道新幹線の東京起点436km000mから518km202mの保守を担当しており,栗東信号場・京都駅・大阪第一車両所・新大阪駅の4つの駅構内の保守をも担当している。

「分岐器管理に関する一考察」鎧坂勝則・兼政雅弘 新線路平成5年5月号

車両基地の大阪第一車両所は2009年に大阪仕業検査車両所と大阪修繕車両所に改組されましたが、「大阪第一車両所」の停車場名は2012年の雑誌記事にも登場しています。少なくとも2012年時点で停車場名としての「大阪第一車両所」は残っていたようです。このように、車両基地に由来する新幹線の停車場名は車両基地の改称・改組でも変更されないことがあります。この記事では、「博多総合車両所」の停車場名も確認できます。

シリウスでは,九州新幹線が走行する博多駅―鹿児島中央駅間に加え,大阪第一車両所―博多駅間の列車ダイヤおよび車両運用ダイヤを保有する。

(中略)

列車の在線状況/遅延状況の情報については,大阪第一車両所―博多総合車両所間をコムトラックから受信する。

「山陽・九州新幹線の相互直通運転を実現する新幹線運行管理システム」原田宗幸ほか 日立評論2012年6月号

博多総合車両所のキロ程は信号保安1974年12月号所収「新組織の紹介 2.九州管理部」によると東京起点1078k350mのようです(博多駅起点に換算すると9.25kmであり、ちょうど車両基地中央で道路がアンダーパスしているあたりとなります)。一方、博多南駅のキロ程は博多駅起点で8.5kmなので、同所はキロ程のうえでは博多南~新鳥栖間になることになります。

なお、Wikipediaには「鳥飼信号場」なる記事がありますがこのような信号場は存在しないようです(以前の配線略図には存在しない「鳥飼信号場」の停車場名を記載しておりました。大変失礼いたしました)。

さらに、2016年に発生した九州新幹線の脱線事故の事故調査報告書にて、当該列車が熊本駅~熊本総合車両所間の「回送列車」であったことが明かされました。「構内入換」ではなく「列車」である以上、熊本総合車両所は熊本駅とは独立した一つの停車場であったことになります。

九州旅客鉄道株式会社の九州新幹線博多駅発熊本駅行き6両編成の第5347A列車は、熊本駅到着後、回送列車として、平成28年4月14日(木)、熊本駅を定刻(21時25分)に出発した。(中略)熊本駅~熊本総合車両所間は、車掌が乗務せず、運転士のみ乗務していたが、死傷者はいなかった。

九州旅客鉄道株式会社 九州新幹線 熊本駅~熊本総合車両所間 列車脱線事故 鉄道事故調査報告書

ちなみに、本稿を執筆している間に東海道新幹線等の大阪指令所が報道公開された際の記事をいくつか発見しました(記事1記事2)。記事では機密保持のためか画質が落とされており列車位置を示すパネルの文字自体は確認できないものの、上記で停車場として紹介した信号場・車両基地に相当する位置に白色の文字が記載されており、これらが正式な停車場として取り扱われていることが分かります。

東北・上越・北陸・北海道新幹線

東北・上越・北陸・北海道新幹線では、上野新幹線第一運転所、鷲宮信号場、仙台総合車両所、盛岡新幹線運転所、新潟新幹線第一運転所、長野新幹線運転所、白山総合車両所、新中小国信号場、湯の里知内信号場の9つの停車場が存在すると思われます。

東北新幹線配線略図(抜粋)
東北新幹線配線略図(抜粋)

上野第一運転所という停車場の存在は東北新幹線上野開業当時の雑誌記事で確認できます。例えば、鉄道電気38巻3号掲載の「信号通信,システムの工事を施行して」(千頭則夫)という記事掲載の線路図には上野駅と大宮駅の間に「上野第一運転所」の文字があります。

車両基地の上野第一運転所は1987年に上野新幹線第一運転所に改称され、これに伴い停車場名も「上野新幹線第一運転所」に改称されています。

列車番号の末尾の記号は長野新幹線開業前まで東京~上野新幹線第一運転所(以下『上一運』)間の折り返し列車については上越新幹線も東北新幹線内で列車の運転が完結することから『B』で統一されておりました。

「東日本旅客鉄道新幹線ダイヤ」阿保篤 運転協会誌1999年3月号

その後、上野新幹線第一運転所は2004年に東京新幹線車両センターに改組されていますが、「上一運」の文字は2024年1月のJR東日本のプレスリリースにも確認でき、停車場名としての「上野新幹線第一運転所」は未だに改称されていないことが分かります。(2024年10月20日以上2段落加筆修正)

東北新幹線配線略図(抜粋)
東北新幹線配線略図(抜粋)

鷲宮信号場の存在も雑誌記事で確認できました。

連動装置は,大宮駅及び鷲宮信号場(保守基地)に設けられ、鷲宮信号場は、大宮駅から遠隔制御を行なっている。

「東北新幹線をお守りして」浅葉一男 鉄道電気35巻8号
東北新幹線配線略図(抜粋)
東北新幹線配線略図(抜粋)
東北新幹線配線略図(抜粋)
東北新幹線配線略図(抜粋)

また、信号保安38巻5号所収「東北・上越新幹線の一冬を終えて」(宮本和博ほか)掲載の線路図には「鷲宮」のほか「仙一運」「盛一運」「新一運」の文字があり、それぞれ仙台新幹線第一運転所、盛岡新幹線 第一運転所、新潟新幹線第一運転所が停車場として扱われていることが分かります(同図には停車場でない小山基地、各保線基地の名前も書かれていますが、これらの名称は一段下に書かれており停車場でないことがわかります)。このうち仙台新幹線第一運転所の停車場名は、2013年時点で仙台総合車両所に改称されています。

東日本旅客鉄道株式会社の東北新幹線仙台総合車両所発、白石蔵王駅行き10両編成の試第7932B列車は、平成23年3月11日、仙台総合車両所を定刻に出発した。

東日本旅客鉄道株式会社 東北新幹線 仙台駅構内 列車脱線事故 鉄道事故調査報告書

なお、盛岡新幹線 第一運転所の停車場名も盛岡新幹線運転所に改称されているようですが、こちらは正確に確認できていません。

北陸新幹線では、工事誌にて長野新幹線運転所、白山総合車両基地の2つの停車場名が確認できます。

停車場に設置する信号通信機器室は駅付近に設置し、機器室間隔は長幹所・飯山間:20.2km、飯山・上越妙高間:29.5km、(中略)、新高岡・金沢:40km及び金沢・白山総合車両基地:12km程度となった。

『北陸新幹線工事誌』 p.365

ただし、「白山総合車両基地」の停車場名は北陸新幹線の建設主体である鉄道・運輸機構側の名称である可能性があります。JR西日本ファクトシート(2024年版)では金沢~福井間に「白山総合車両所」の文字があり、こちらがJR西日本側での正式な停車場名である可能性が高いと思います。(2024年10月19日本段落追記)

北海道新幹線配線略図(抜粋)
北海道新幹線配線略図(抜粋)
北海道新幹線配線略図(抜粋)
北海道新幹線配線略図(抜粋)

新中小国信号場、湯の里知内信号場はいずれも『北海道新幹線工事誌』にて存在が確認できます。新中小国信号場については、認可当初は奥津軽いまべつ駅構内となる計画だったようですがその後計画変更により分離して開業したようです。

1. 新中小国信号場

共用走行区間の始点となる北海道新幹線と津軽海峡線との分岐部を構内に有しており、奥津軽いまべつ駅からは、10kmほど起点方に位置し、上下線ともに1線ずつの信号場である。

認可当初は共用走行区間の始点となる分岐部は奥津軽いまべつ駅構内に含める計画であったため、奥津軽いまべつ駅は10km以上の範囲を持つ広大な駅構内であった。しかし、異常時における運転取り扱い等の煩雑さを鑑み、平成20年に分岐部を奥津軽いまべつ駅と分離し、新中小国信号場として停車場化した。

(同時に奥津軽いまべつ駅構内であった一部の区間は、新中小国信号場と奥津軽いまべつ駅との「駅間(約7km)」となっている。)

『北海道新幹線工事誌』 p.243

ちなみに

新幹線の車両基地が停車場として扱われている場合、それは「信号場」ではなく「操車場」として整理されているという話を聞きましたが、私の調査能力では根拠となる文献を発見できませんでした。

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