資料館 鉄道営業法(1900年時点)

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鉄道営業法(明治33年法律第65号)

朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル鉄道営業法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

  御 名  御 璽

明治三十三年三月十五日

内閣総理大臣 侯爵 山形有朋
  逓信大臣 子爵 芳川顕正

法律第六十五号
鉄道営業法

第一章 鉄道ノ設備及運送

第一条 鉄道の建設、車輌器具ノ構造及運転ハ命令ヲ以テ定ムル規程ニ依ルヘシ
第二条 本法其ノ他特別ノ法令ニ規定スルモノノ外鉄道運送ニ関スル特別ノ事項ハ鉄道運輸規程ノ定ムル所ニ依ル
 鉄道運輸規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三条 運賃ノ増加及運送取扱条件の変更ハ関係停車場ニ二週間以上公告シタル後ニ非サレハ之ヲ実施スルコトヲ得ス
第四条 伝染病患者ハ主務大臣ノ定ムル規程ニ依ルニ非サレハ乗車セシムルコトヲ得ス
 附添人ナキ重病者ノ乗車ハ之ヲ拒絶スルコトヲ得
第五条 火薬其ノ他爆発質危険品ハ鉄道カ其ノ運送取扱ノ公告ヲ為シタル場合ノ外其ノ運送ヲ拒絶スルコトヲ得
第六条 鉄道ハ左ノ事項ノ具備シタル場合ニ於テハ貨物ノ運送ヲ拒絶スルコトヲ得ス
  1. 一 荷送人カ法令其ノ他鉄道運送ニ関スル規定ヲ遵守スルトキ
  2. 二 貨物ノ運送ニ付特別ナル責務ノ条件ヲ荷送人ヨリ求メサルトキ
  3. 三 運送カ法令ノ規定又ハ公ノ秩序若ハ善良ノ風俗ニ反セサルトキ
  4. 四 貨物カ成規ニ依リ其ノ線路ニ於ケル運送ニ適スルトキ
  5. 五 天災事変其ノ他已ムヲ得サル事由ニ基因シタル運送上ノ支障ナキトキ
 前項ノ規定ハ旅客運送ニ之ヲ準用ス
第七条 運送ニ付特別ノ設備ヲ要スル貨物ニ関シテハ鉄道ハ其ノ設備アル場合ニ限リ之ヲ引受クルノ義務ヲ負フ
第八条 鉄道ハ直ニ運送ヲ為シ得ヘキ場合ニ限リ貨物ヲ受取ルヘキ義務ヲ負フ
第九条 貨物ハ運送ノ為受取リタル順序ニ依リ之ヲ運送スルコトヲ要ス但シ運輸上正当ノ事由若ハ公益上ノ必要アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十条 鉄道ハ貨物ノ種類及性質ヲ明告スヘキコトヲ荷送人ニ求ムルコトヲ得若シ其ノ種類及性質ニ付疑アルトキハ荷送人ノ立会ヲ以テ之ヲ点検スルコトヲ得
 点検ニ因リ貨物ノ種類及性質カ荷送人ノ明告シタル所ト異ナラサル場合ニ限リ鉄道ハ点検ニ関スル費用ヲ負担シ且之カ為生シタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
 前二項ノ規定ハ火薬其ノ他爆発質危険品ヲ成規ニ反シ手荷物中ニ収納シタル疑アル場合ニ之ヲ準用ス
第十一条 貨幣、有価証券其ノ他高価品ニ付テハ荷送人カ運送委託ノ際其ノ物品ノ種類、性質及価格ヲ明告シ且増賃金ヲ支払ヒタル場合ノ外鉄道ハ損害賠償ノ責ニ任セス但シ鉄道カ増賃金ノ支払ヲ請求セサルニ因リ荷送人ニ於テ其ノ支払ヲ為ササルトキハ此ノ限ニ在ラス
 前項増賃金ノ割合ハ鉄道運輸規程ノ定ムル所ニ依ル
第十二条 牛馬其ノ他ノ獣類ニ付テハ荷送人カ運送委託ノ際価格ヲ明告セサルトキ又ハ明告スルモ鉄道運輸規程ニヨリ鉄道ノ請求スル増賃金ヲ支払ハサルトキハ其ノ損害ニ付鉄道ハ鉄道運輸規程ニ定ムル最高金額迄ヲ限リ賠償ノ責ニ任ス
 前項賠償金額ノ制限ハ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ損害ヲ生シタル場合ニハ之ヲ適用セス
第十三条 悪意又ハ重大ナル過失ニ因ラサル手荷物ノ滅失、毀損ニ付テハ鉄道ハ鉄道運輸規程ニ定ムル最高金額迄ヲ限リ損害賠償ノ責ニ任ス
第十四条 運賃償還ノ債権ハ一年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
第十五条 旅客ハ営業上別段ノ定アル場合ノ外運賃ヲ支払ヒ乗車券ヲ受クルニ非サレハ乗車スルコトヲ得ス
 乗車券ヲ有スル者ハ列車中座席ノ存在スル場合ニ限リ乗車スルコトヲ得
第十六条 旅客カ乗車前旅行ヲ止メタルトキハ鉄道運輸規程ノ定ムル所ニ依リ運賃ノ払戻ヲ請求スルコトヲ得
 乗車後旅行ヲ中止シタルトキハ運賃ノ払戻ヲ請求スルコトヲ得ス
第十七条 天災事変其ノ他已ムヲ得サル事由ニ因リ運送ニ著手シ又ハ之ヲ継続スルコト能ハサルニ至リタルトキハ旅客及荷送人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ鉄道ハ既ニ為シタル運送ノ割合ニ応シ運賃其ノ他ノ費用ヲ請求スルコトヲ得
第十八条 旅客ハ鉄道係員ノ請求アリタルトキハ何時ニテモ乗車券ヲ呈示シ検査ヲ受クヘシ
 有効ノ乗車券ヲ所持セス又ハ乗車券ノ検査ヲ拒ミ又ハ取集ノ際之ヲ渡ササル者ハ鉄道運輸規程ノ定ムル所ニ依リ割増賃金ヲ支払フヘシ
 前項ノ場合ニ於テ乗車停車場不明ナルトキハ其ノ列車ノ出発停車場ヨリ運賃ヲ計算ス

第ニ章 鉄道係員

第十九条 鉄道係員ノ職制ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十条 私設鉄道ハ鉄道係員ノ服務規程ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第二十一条 主務大臣ハ鉄道係員タルニ要スル資格ヲ定ムルコトヲ得
第二十二条 旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ
第二十三条 私設鉄道係員ハ職務上ノ義務ニ違背シ若ハ職務ヲ怠リ又ハ失行アリタルトキハ懲戒ヲ受ク
 会社ハ懲戒ニ関スル規程ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
 懲戒ヲ為スヘキ場合ニ於テ会社之ヲ為ササルトキハ主務大臣ニ於テ懲戒ヲ為スコトヲ得
第二十四条 鉄道係員職務取扱中旅客若ハ公衆ニ対シ失行アリタルトキハ二十五円以下ノ罰金ニ処ス
第二十五条 鉄道係員職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リ旅客若ハ公衆ニ危害ヲ醸スノ虞アル所為アリタルトキハ五百円以下ノ罰金又ハ三月以下ノ重禁錮ニ処ス
第二十六条 鉄道係員旅客ヲ強ヒテ定員ヲ超ヘ(※作者注:原文ママ、正しい仮名遣いでは「エ」)車中ニ乗込マシメタルトキハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十七条 鉄道係員旅客又ハ荷送人若ハ荷受人ト通謀シ運賃ノ一部若ハ全部ヲ免レシメタルトキハ三年以下ノ重禁錮ニ処シ五百円以下ノ罰金ヲ附加ス
第二十八条 鉄道係員道路踏切ノ開通ヲ怠リ又ハ故ナク車両其ノ他ノ器具ヲ踏切ニ留置シ因テ往来ヲ妨害シタルトキハ二十円以下ノ罰金ニ処ス

第三章 旅客及公衆

第二十九条 運賃ヲ免ルルノ目的ヲ以テ左ノ所為ヲ為シタル者ハ五十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
  1. 一 有効ノ乗車券ナクシテ乗車シタルトキ
  2. 二 乗車券ニ指示シタルモノヨリ優等ノ車ニ乗リタルトキ
  3. 三 乗車券ニ指示シタル停車場ニ於テ下車セサルトキ
第三十条 運送品ノ種類若ハ性質ヲ詐称シ又ハ運賃ヲ免ルルノ目的ヲ以テ詐偽ノ所為ヲ為シタル者ハ三月以下ノ重禁錮又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十一条 鉄道運送ニ関スル法令ニ背キ火薬類其ノ他爆発質危険品ヲ託送シ又ハ車中ニ携帯シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第三十二条 列車警報機ヲ濫用シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第三十三条 旅客左ノ所為ヲ為シタルトキハ二十五円以下ノ罰金ニ処ス
  1. 一 列車運転中乗降シタルトキ
  2. 二 列車運転中車両ノ側面ニ在ル車扉ヲ開キタルトキ
  3. 三 列車中旅客乗用ニ供セサル箇所ニ乗リタルトキ
第三十四条 制止ヲ肯セスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ科料ニ処ス
  1. 一 停車場其ノ他鉄道地内吸煙禁止ノ場所及吸煙禁止ノ車内ニ於テ吸煙シタルトキ
  2. 二 婦人ノ為ニ設ケタル待合室及車室等ニ男子妄ニ立入リタルトキ
第三十五条 車内、停車場其ノ他鉄道地内ニ於テ妄状ヲ現ハシ其ノ他不良ノ行状ヲ為シタル者ハ科料ニ処ス
第三十六条 車両、停車場其ノ他鉄道地内ノ標識掲示ヲ改竄、毀棄、撤去シ又ハ灯火ヲ滅シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
 信号機ヲ改竄、毀棄、撤去シタル者ハ三月以上三年以下ノ重禁錮ニ処シ五円以上五十円以下ノ罰金ヲ附加ス
第三十七条 停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ科料ニ処ス
第三十八条 暴行脅迫ヲ以テ鉄道係員ノ職務ノ執行ヲ妨害シタル者ハ一年以下ノ重禁錮ニ処シ百円以下ノ罰金ヲ附加ス
第三十九条 車内、停車場其ノ他鉄道地内ニ於テ発砲シタル者ハ二十五円以下ノ罰金ニ処ス
第四十条 列車ニ向テ瓦石類ヲ投擲シタル者ハ十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十一条 第四条ノ規定ニ違反シ伝染病患者ヲ乗車セシメタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス伝染病患者其ノ病症ヲ隠蔽シテ乗車シタルトキ亦同シ
 前項ノ場合ニ於テ途中下車セシメタルトキト雖既ニ支払ヒタル運賃ハ之ヲ還付セス
第四十二条 左ノ場合ニ於テ鉄道係員ハ旅客及公衆ヲ車外又ハ鉄道地外ニ退去セシムルコトヲ得
  1. 一 有効ノ乗車券ヲ所持セス又ハ検査ヲ拒ミ運賃ノ支払ヲ肯セサルトキ
  2. 二 第三十三条第三号ノ罪ヲ犯シ鉄道係員ノ制止ヲ肯セサルトキ又ハ第三十四条ノ罪ヲ犯シタルトキ
  3. 三 第三十五条、第三十七条ノ罪ヲ犯シタルトキ
  4. 四 其ノ他車内ニ於ケル秩序ヲ紊ルノ所為アリタルトキ
 前項ノ場合ニ於テ既ニ支払ヒタル運賃ハ之ヲ還付セス
第四十三条 前諸条ノ犯罪及鉄道保安ニ関スル犯罪ニシテ罰金ノ刑ニ(作者注:一字不明)ルヘキ軽罪若ハ違警罪ノ現行犯アリタルトキ被告人カ其ノ住所氏名ヲ公明ニ告知セス又ハ逃亡ノ虞アリタルトキハ鉄道係員ハ司法警察官ニ之ヲ引致スルコトヲ得

附則

第四十四条 本法ハ私設鉄道法ニ依ラサル私設鉄道ニハ之ヲ適用セス
第四十五条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
 鉄道略則、鉄道犯罪罰例、明治十六年七月第二十三号布告ハ之ヲ廃止ス

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