【無駄?】構内配線が2ルートある駅

【無駄?】構内配線が2ルートある駅

はじめに

構内配線を設計する際、分岐器の数は最小限にするのが普通です。不要な分岐器は設置のための設備投資だけでなく分岐器自体やそれによって複雑化する信号設備の保守コストの増大を招きます。一見不要に見える分岐器でも、ちゃんと設置された理由があるのが普通です。

ところが、奥羽本線の羽後飯塚駅(福島方)の配線はちょっと不自然です。中線が一旦上下本線に振り分けられ、それが再度合流する配線になっており、中線を出入りする列車は上下で別の経路を通ることになります。中線が上りまたは下り本線のどちらかに合流する配線にすれば分岐器が2つ節約できそうなものですが、なぜこのような配線になっているのでしょうか?

奥羽本線配線略図(抜粋)
奥羽本線配線略図(抜粋)
羽後飯塚駅の2つのルート
羽後飯塚駅の2つのルート

交差支障のための複数ルート

一見不要な分岐器が設置される例と言えば、首都圏の通勤路線などにみられる平面交差支障を解消するための工夫があります。例えば、小田急小田原線新宿駅の地上ホームは、上下本線間のシーサスの先で2本の線路のそれぞれから分岐した線路が合流しています。このようにすることで、交差支障を最小限に多数の上り列車の到着と下り列車の発車を同時に行うことができます。

小田急電鉄小田原線配線略図(抜粋)
小田急電鉄小田原線配線略図(抜粋)
新宿駅の配線
新宿駅の配線

同様に分岐器を増やして同時発着を容易にしている例は都市圏中心に終着駅や分岐駅に多く、東京駅地下総武線ホーム小田急線相模大野駅、また関西ですとJR難波駅高槻駅阪神電鉄大阪梅田駅阪神電鉄西宮駅近鉄京都駅などがあります。

総武本線配線略図(抜粋)
総武本線配線略図(抜粋)
関西本線配線略図(抜粋)
関西本線配線略図(抜粋)
阪神電鉄本線配線略図(抜粋)
阪神電鉄本線配線略図(抜粋)

しかし、奥羽本線羽後飯塚駅の配線はこの方法では説明できません。単線区間のため、構内配線とは無関係に上下列車が駅の同じ側を同時発着できないためです。謎は深まるばかり……。

過走余裕距離

謎を解く鍵は、ATSがあっても安全側線が必要な理由でも紹介した過走余裕距離にあります。

列車の運転士は、常に信号を守って運転することが求められています。しかし、手前の注意信号を見逃したり、一旦停車後信号現示を確認せず発車したりして停止信号を冒進する事故は絶えません。停止現示の出発信号機のすぐ先に他の列車が走っていると、多数の死傷者を出しかねない列車衝突事故になってしまいます。このような事故を防ぐため、ATS-Pなどの保安度の高い保安装置を用い、停止信号の手前で確実に列車が停止できる場合を除いて、互いに進路を支障しうる2つの列車が同時に駅構内に進入・進出する場合に次のような安全対策を取らなければならないことになっています。

  • 対向列車など互いに支障するおそれのある列車はそもそも同時に駅構内に進入させず、いずれか一方を抑止しておく
  • 安全側線を設ける
  • 警戒信号(25km/h)を現示して列車を進入させる
  • 列車の進路に対し信号機前方に過走余裕距離を設ける

過走余裕距離とは、万一列車が停止信号の信号機を冒進した場合に備え、信号機の先の一定距離を他の列車が支障しないようにするもので、旧国鉄の内規では150mでしたが、現行の省令解釈基準では100mとなっています。

(列車の同時進入及び同時進出)
第55条 停車場で2以上の列車が相互に支障するおそれのあるときは、次の各号の1に該当する場合に限り、これらの列車を同時に進入させ、又は進出させることができる。
  1. (1) 安全側線(引上線を含む。)を設けてあるとき
  2. (2) 警戒信号により列車を進入させるとき
  3. (3) 列車の進路に対して、出発信号機又は列車停止標識若しくは場内信号機の位置から前方に150m以上の過走余裕距離を設けてあるとき
  4. (4) 列車を誘導するとき
旧国鉄運転取扱基準規程(昭和39年運達第33号) ※運転取扱基準規程逐条解説(昭和40年4月初版発行)による

Ⅹ-14 第105条(列車の同時進入進出)関係

自動的に列車を停止させることができる装置を設けてある場合のほか、次のときは、過走により相互にその進路を支障するおそれのないものとする。

  1. (1) 警戒信号を現示して列車を運転するとき。
  2. (2) 安全側線が設けてあるとき。
  3. (3) 場内信号機又は出発信号機若しくは列車停止標識から過走による相互支障を生ずる限界までの距離が100m以上あるとき。
鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準

もちろん警戒信号を現示して列車を進入させたりいずれかの列車を機外停止させて同時進入を行わなければ過走余裕距離は不要ですが、ダイヤ設定に制約が生まれたりダイヤ乱れ時に遅延が増幅したりする可能性もあります。

前述の奥羽本線の例では、分岐器を1つでも撤去すると中線がからむ列車の同時進入が困難になることが分かります。同駅の福島方出発信号機は分岐器のすぐ手前に設置されており、過走余裕距離を確保するのが難しくなるためです。ただでさえダイヤが乱れやすい単線区間で、遅れを増幅してしまう可能性があります。

一方、分岐器を多くすることで中線を発着する列車がある場合でも過走余裕距離を200m程度確保することができ、安全に列車を同時進入させることができます。

分岐器を増やして過走余裕距離を確保
分岐器を増やして過走余裕距離を確保

余分な分岐器を設置している例

同様に単線区間の中線のある交換駅で余分な分岐器を設置している例は、東日本を中心に何駅かあります。下で例を挙げたほかにもあると思いますので、興味のある方は探してみてはいかがでしょうか。

篠ノ井線配線略図(抜粋)
篠ノ井線配線略図(抜粋)
関西本線配線略図(抜粋)
関西本線配線略図(抜粋)
函館本線配線略図(抜粋)
函館本線配線略図(抜粋)

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