はじめに
車両の研究をするにあたり、その車両が現存しているのかどうかというのをはっきりさせるのは重要です。しかし、JR貨物は長らく保有する貨車の一覧を公開しておらず、オフィシャルな資料から個別の貨車の存否を決定するのは不可能に近い現状があります。
そこで、本記事では公開されている衛星画像から車両基地構内等に留置されている希少な貨車の存否を判別します。撮影年月がわかるGoogle Earth Proの衛星画像を用い、確認できる貨車の形状、全長、留置場所などから車種を特定し、敷地外からは確認できないような位置に長期にわたり留置されている希少貨車の動向を追います。
本来、貨車は両数が多数存在するうえ、全国の営業路線を縦横無尽に運用されるため、個別の車両番号のわからない衛星画像から車両動向を追うのは困難です。しかし、両数が5両を切るような希少貨車や、その貨物駅に常備されている両数の少ない貨車については衛星画像に現車が写っていればほぼ確実に車両を特定することができます。また、本線での運用の機会の少ない貨車はそれだけ、常備駅の留置線に留置されている姿が衛星画像に写っている可能性が高いです(本線運用に頻繁に駆り出されている貨車は衛星画像に写らない可能性もありますが、そのような車両は目撃情報などで確認できるでしょう)。ただし、現車が残っていても車籍が残っていない可能性があるということに注意が必要です。
※この記事はコラム「公開情報から推測するJR貨物の貨車車両動向」(仮題・後日公開予定)の一部として調査していた内容ですが、量が膨れ上がってしまったので別記事に仕立てたものです。
コキ5500形コキ26714(コキ5000形コキ5000)
コンテナ専用貨車の草分け的存在です。この車両はチキ5000形チキ5000形として1959年に落成し、1965年にコキ5000形に形式が変更され、さらに1967年にデッキ取付に伴いコキ5500形コキ6714に改造、1970年代に12ftコンテナ積載対応に伴いコキ26714に改造されました。
運用を終了した後も長らく稲沢駅構内に留置されている姿がみられましたが、2022年4月撮影の衛星画像によりまだ現車が残っていることが確認できました。また、2022年9月の目撃情報により現車の番号が「コキ5000」に書き換えられていることも判明しました。既に車籍はなく、保存車として残されているものと思われます。
チサ9000形チサ9000
トラックのピギーバック輸送の試験のために1983年に製作(改造)された車両です。低床車のため3軸台車を装備していることが特筆されます。国鉄時代に試験が終了したあとも車籍が残され、最後にJR貨物から貨車両数一覧が公表された2010年4月1日時点でも在籍していました。現車は広島車両所構内に留置され、直近では2019年10月の広島車両所公開にて目撃されています。
今回、2022年5月撮影の衛星画像にて広島車両所構内北東部に現車が残存していることが確認できました。衛星画像からは特徴的なトレーラー走行面、前位車端部にある開放可能な側ばりが確認できます。
敷地外からぎりぎり見えそうな位置だったので現地に行ってみました。見えることは見えるものの、後位側からはかなりカメラのズーム機能がないと見えない位置でした。ただ、低床構造の車体であることは確認できると思います。前位側も建物の陰に隠れて見えづらいものの、特徴的な形状の側ばりや3軸台車が確認できました。
シム1形シム110・111・116・117
鉄道車両輸送のため低床式の貨車として登場した形式ですが、晩年は新幹線車両の甲種輸送時の控車として使用されていました。新幹線車両は在来線のホームの車両限界をクリアするために車高の高い特殊な仮台車を履いて輸送されるため、連結器高さが異なり、このためシム1形は片側に高さの高い連結器のアタッチメントを装備して在来線の機関車との間に連結されていました。2010年4月1日時点では日本車輌製造が所有し豊川駅に常備されているシム110・111・116・117の4両が残存していましたが、このとき既に車両製造時の出荷経路である飯田線でホームのかさ上げが行われていたため新幹線車両の甲種輸送は不可能となり、用途を喪失した状態でした。
シム1形の4両は2017年3月に全般検査を受けて以降長らく動向がつかめない状態でしたが、今回2022年10月撮影の衛星画像にて4両とも現車が残っているのを確認しました。シム1形4両のうち、シム110・111の2両は車体長15,200mmの低床式貨車で、シム116・117の2両は車体長13,900mmの平床式となっています。画像からは工場東方の留置線群に低床式貨車1両と平床式貨車2両、工場内中央部に低床式貨車1両が留置されているのを確認できます。
日本車輌製造構内は近年撮影が禁止となっているうえ、うち1両は工場のかなり奥のほうに留置されており、敷地外からの観察は非常に困難であろうと思います。また本線運転の機会があることを願うばかりです。
ヨ8000形ヨ8803
ヨ8000形は在籍両数が多く衛星画像から個々の車両の存否を特定するのが困難ですが、東北支社管内のヨ8000形は2両しかおらず特定が可能です。
郡山貨物ターミナル駅常備(東北コリ)のヨ8803は2021年10月に全検出場して以来本線上に姿を見せていません。2022年9月撮影の衛星画像から、ヨ8803と思われる車両が郡山貨物ターミナル駅の北東部の留置線に留置されているのを確認しました。敷地外からでも撮影可能な位置かもしれません。
※2023年9月に本線走行が確認されました。(2023年10月7日追記)
一方、盛岡貨物ターミナル駅常備(東北モカ)のヨ8753については、盛岡周辺で衛星画像の更新が進んでおらず近年の動向を調べることができませんでした。ただし、2023年2月現在、ヨ8000形1両が盛岡タ駅に留置されていることを前面展望動画で確認していますので車両自体は残っているものと思われます。
※2023年9月に本線走行が確認されました。(2023年10月7日追記)
タキ14700形タキ14738
かつて国鉄では様々な化学薬品を積載するため多種多様な私有タンク車が在籍していました。タキ14700形は液化酸化エチレン専用のタンク車として1969年から2000年にかけて39両製造されました。今回、そのうちラストナンバーとなるタキ14738が保管されているのを確認しました。
桜島線の安治川口駅には関西化成品輸送の専用線が接続しています。この専用線は化学薬品の鉄道輸送のターミナルとして設置され、現在でもコキ200系積載のタンクコンテナの荷役を行っています。なかでも構内のはずれにある二硫化炭素の荷役線には、いくつかの貨車廃車体が留置されています。
この線路に留置されているのは、ワム80000形有蓋車13両とタンク貨車1両です。ワム80000形はとび色の28000番代と青色の38000番代両方があるようです。またタンク貨車1両の形式は不明でしたが、敷地外から見えそうだったので現地に行ってみたところタキ14700形タキ14738であることが分かりました(車両に記載されている番号と一致した上、タンクの背板の形状やタンク体に補強帯がないことが過去撮影された画像と一致します)。タキ14738は2000年に製造されたもののJR貨物の化成品車扱輸送全廃を受けて10年足らずで運用を失った悲運の車両であり、このように余生を過ごしているというのは興味深いことです。
現役時代、タンク体は高圧ガス保安法の規制でねずみ色に塗られていましたが、今回確認した時車体は黒色で塗りなおされていて標記類は車両番号を除いて消えてしまっていました。すでに酸化エチレンの積載には使われておらず車籍もないとみられますが、タンク体が塗りなおされているということは逆に定期的な手入れがなされているという証拠とも言えるかもしれません。
なお、関西化成品輸送専用線では他にもタンク車・有蓋車数両が保管されていましたが、線路の一部廃止に伴い2021年に解体されてしまったようです。
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