【ダイヤ予想】しなの鉄道「単線化」の可能性を検証

はじめに

2023年12月14日、しなの鉄道がしなの鉄道線信濃追分~上田間と北しなの線黒姫~妙高高原間の単線化を検討していることが新聞各社の報道で判明しました。

今後、しなの鉄道は数十億円超をかけて、信濃追分―上田間(32・8キロ)と黒姫―妙高高原間(8・4キロ)の複線区間を単線化することも検討している。

しなの鉄道ピンチ 「地方の鉄路を残すため」線路撤去費などの支援を(朝日新聞デジタル 2023年12月14日)

同社は新型コロナウイルス禍の影響などで経営状況が悪化している。今後は信濃追分駅―上田駅、黒姫駅―妙高高原駅の単線化に取り組むとして「数十億円以上」の費用がかかると説明した。面会後に阿部知事は「施設を今の旅客数に合わせて最適化することが必要だ。大臣には前向きに受け止めて頂いた」と話した。

しなの鉄道、財政支援を要望 長野県知事らが国交相に(日経電子版 2023年12月14日)

報道によると、同社はかつての特急運転のための長いホームや高度な設備の維持管理に苦慮しており、現在の旅客数に見合った施設に最適化するため、不要な設備の撤去などに国交省の補助を要請しています。このなかで、将来的に2区間の単線化をすることを検討していることが判明しました。

本記事ではしなの鉄道の経営の特殊性、これまでの合理化の取り組み、単線化の意義について簡単に解説したうえで、これらの区間(特に信濃追分~上田間)の単線化が列車ダイヤ上可能なのかどうかについて考察していきます。

しなの鉄道の経営の特殊性とこれまでの経営改善策

妙高高原駅構内

しなの鉄道は、1997年10月1日の北陸新幹線高崎~長野間開業に際し設立されました。現在はかつての信越本線のうち軽井沢~篠ノ井間(しなの鉄道線)と長野~妙高高原間(北しなの線)を経営しています。

しなの鉄道が他の並行在来線第三セクターと大きく異なる点として、貨物列車の通過が少なく線路使用料収入(貨物調整金を含む)が少ないことが挙げられます。たとえば、同じく並行在来線を形成する第三セクター鉄道であるあいの風とやま鉄道は貨物線路使用料として2022年度に20.8億円を受け取っており、これは同社の旅客運輸収入25.7億円に匹敵する規模となります。これに対し、しなの鉄道が受け取る線路使用料は年間4.9億円であり、旅客運輸収入24.6億円の2割に満たない額です。貨物列車の主要な輸送ルートから外れているため列車の本数や両数が少ないうえ、しなの鉄道線が2002年の貨物調整金制度開始より前に開業したためアボイダブルルール相当の極めて少ない線路使用料しか支払われていないためと考えられます。

なお、これでも2014年度(8200万円あまり)以前の線路使用料よりはるかに増額されています。これは、2015年に開業した北しなの線において貨物輸送機能確保のための経費(4億円強)に対する補助が出ているためです。定期貨物列車が運行されていない北しなの線ですが災害時には貨物輸送の迂回路としての役割が期待されており、実際に2023年に入って甲種輸送や訓練運転の石油貨物列車が時折通過しています。

115系の車内液晶ディスプレイ

厳しい経営状況に対し、しなの鉄道では様々な経営改善策を講じてきました。首都圏の電車で車内の液晶モニターが普及するはるか前から115系電車の車内にモニターを設置し沿線協賛企業の動画広告を流しているのが利用客にとって身近な例ですが、ほかにも2回にわたる最高速度の引き下げで線路保守費用を圧縮したり、しなのサンライズ・サンセット号や観光列車などのユニークな列車を運転したり、という取り組みが行われています。

単線化の意義とは

黒姫~妙高高原間の複線区間

今回の報道では不要な線路や長すぎるホームの撤去に加え、複線区間の一部を単線化する検討が行われていることが判明しました。まず、単線化でどのような費用が削減できるのかについて考えていきます。

当サイトで以前記事を書いたとおり、単なるコスト削減を理由とした「単線化」は日本の鉄道の歴史上ほとんど例がありません。複線区間の片方の線路の災害復旧を断念して単線化した室蘭本線のような例はあるものの、戦争や災害などのきっかけのない単線化が行われるなら鉄道の歴史上かなり珍しいことであると思います。

複線区間を単線とする場合、信号機や踏切の軌道回路を一から設置しなおす必要があり、また途中に交換駅を設けるなら連動装置や分岐器、信号機を新設する必要もあります。新設や改良した設備に対しては当然メンテナンスコストや固定資産税がかかってきますので、多くの場合はこれらの費用が単線化によるコスト削減を上回ってしまうと考えられます。

これに対し、今回しなの鉄道は「単線化」により経営状態の改善をはかることができると考えているようです。これは、不要設備の撤去費用の助成を国交省に要請しているという点が重要かと思います。単なる毎年の赤字補填を政府に対して求めるのが難しい一方、一時の設備投資という形にすることで補助金を引き出し、補助金による設備投資で毎年の設備維持費用を圧縮し経営の改善を図るというスキームだと思われます。

もちろん、いったん単線化した線路を再度複線化するのにも巨額の費用がかかります。後戻りできない厳しい決断であると思いますが、今後旅客輸送量の大幅な増加が見込めない以上、適正な規模の設備へ縮小して持続可能な経営を推進するというのは時代の要請であると言えます。

単線化後のダイヤ検討

小諸駅構内

今回単線化が検討されているのはしなの鉄道線の信濃追分~上田間と北しなの線の黒姫~妙高高原間です。このうち黒姫~妙高高原間は路線の末端区間であり数分程度の時刻変更で黒姫駅での交換に変更することが可能であることなどから検討を割愛させていただき、本章ではしなの鉄道線信濃追分~上田間で単線化がダイヤ上可能なのかを見ていきます。この区間では2023年3月ダイヤ改正で列車が大幅に減便されており、本記事執筆時点のダイヤグラムは次のようになっています。

しなの鉄道線軽井沢~上田間ダイヤグラム(現在)

軽井沢~上田以遠の直通列車のほか小諸で系統分割される列車などがあり、また土休日に快速「軽井沢リゾート1・2号」の設定があります。

ここから、信濃追分~上田間を単線とした場合の列車ダイヤを予想してみました。条件は次のとおりです。

  • 列車本数やそれぞれの列車のおおよその運転時間帯、所要時分は現在のダイヤと同等とする
  • 交換駅で、分岐器の速度制限や列車交換がある場合の場内信号機の注意現示による所要時分増加は考慮しない
  • 各駅の折返し時間は最小6分、小諸駅での乗り継ぎ時間は最小3分
  • 小諸駅でのしなの鉄道線どうしの乗換え以外の接続、上田~長野方面の列車ダイヤの制限は考慮しない
  • 交換駅では対向列車が到着後すぐに発車できるとする(分岐器や信号現示の切替えの時間は考慮しない)
  • 特殊自動閉塞化を想定し、同一閉塞区間内で複数列車が続行運転しない
しなの鉄道線軽井沢~上田間ダイヤグラム(単線化後予想)

上記の予想ダイヤは、現在の列車ダイヤから大きな時刻変更をしないようにしつつ作成したものです。ただし、朝ラッシュで小諸駅での折返しが間に合わず一部列車を直通運転にしたほか、上り「軽井沢リゾート2号」は先行する普通列車を追い抜かないように時刻変更しています。

このように、机上での検討のうえでは御代田駅、小諸駅、田中駅での列車交換のみで現在設定されているすべての列車を運転可能であることが分かりました。前述のとおり、単線化にあたって問題となるのは交換駅で多数の設備を新設するコストですので、中間の交換駅を削減することで単線化によってかかるコストを最小限にすることができます。

ただし、朝ラッシュで小諸駅での折り返し運転を削減することで6両編成で運転する列車が増加し、車両所要数が増加している可能性があり、また各駅の折返し時間や列車交換にも余裕がなく、このダイヤで本当に列車が運転できるのかはわかりません。ダイヤ乱れ時の対応や列車本数の多い篠ノ井~長野間のダイヤとの兼ね合いを考えると、特に小諸~上田間では2~3駅程度交換駅を確保するか、交換駅周辺に部分的に複線区間を残してダイヤに柔軟性をもたせるのが現実的ではないかと思います。場合によっては単線化するのは信濃追分~小諸間にとどめ、朝ラッシュの列車本数が多い小諸~上田間は複線のままにするというのも現実的な選択肢かもしれません。

しなの鉄道の単線化についてはまだ「検討報道」が出た段階であり、今後国交省が不要設備の圧縮に補助金を出すのかどうかも含めて流動的な部分の多い話であります。今後の動向に注目していきたいです。

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