はじめに
「線路等級」という言葉、聞いたことのある方が多いと思います。しかし、具体的に何を指しているのか、どの路線が何級に分類されているのか、明確に解説されている例はあまり多くないのが実情です。本記事では、「線路等級」とそれによく似た概念である「線路種別」について解説しています。
「線路等級」という言葉、聞いたことのある方が多いと思います。しかし、具体的に何を指しているのか、どの路線が何級に分類されているのか、明確に解説されている例はあまり多くないのが実情です。本記事では、「線路等級」とそれによく似た概念である「線路種別」について解説しています。
「線路等級」と「線路種別」はいずれも国鉄の線路を分類していた概念ですが、少々異なります。
「線路種別」とは、戦前に定められた分類方法で、線路を特甲線(正式には「甲線中特別の線路」)、甲線、乙線、丙線、簡易線の5つに分類していたものです。この分類に応じて曲線半径、勾配、軌道負担力、駅の有効長、乗り入れることができる機関車の軸重などの規格が定められ、それぞれの線路に適用されていました。
この区分は昭和4年制定の省令である「日本国有鉄道建設規程」で定められていましたが、その後ほとんど改正されなかったため線区の実情にそぐわない分類となった例が多数みられるようになりました。一例を挙げると、データイムには2時間に1本程度の列車しか運転されていなかった播但線が「乙線」に分類されていたのに対し、通勤電車が数分間隔で運転されていた南武線は「丙線」となっていました。日本国有鉄道建設規程にはこのほかにも実情にそぐわない古い規定が多々あったことから全面改正する作業が進められていましたが、その作業は遅々として進まず、結局分割民営化に伴い国鉄が消滅するまで改正が実現することはありませんでした。
このため、国鉄では1964年に国鉄の内規である「線路管理規程」の中で新たに「線路等級」を定め、これをもとに線路や建造物等の規格を定めることとしました。まとめると、
このように、国鉄の線路には「線路等級」と「線路種別」の2種類の分類法による二重規制が行われていたことになります。例えば前述した播但線は「線路種別」では乙線でしたが、「線路等級」では4級線に「格下げ」されていました。「4級線」という実情にあった分類がなされた後も国の法令による「乙線」という分類は生きている状態だったわけで、ややこしいことこの上ないです。
線路等級は、概ね次のような基準で分類されました。具体的にどの線区が何級に分類されているかは後述します。なお、高性能列車は新性能電車のうち特に指定されていたものを指していました。
線路等級 標準通過トン(年当り) 最高速度 最大軸重 高性能列車 一般列車 直線 曲線 直線 曲線 1級線 2,000万トン以上 120km/h 本則+5km/h 110km/h 本則 18トン 2級線 1,000~2,000 110~120km/h 本則+5km/h 100km/h 本則 17トン 3級線 500~1,000 105km/h 本則+5km/h 95km/h 本則 15トン 4級線 200~500 95km/h 本則 85km/h 本則 14トン 特に簡易な4級線 200万トン未満 85km/h 本則 75km/h 本則 13トン 『鉄道施設技術発達史』鉄道施設技術発達史編纂委員会編(1994)より
異なる線路等級ごとに、具体的にどのような規格が定められていたのでしょうか。以下では主に1960年代の制定当初に定められていた値をご紹介します。まず、最小曲線半径はつぎのように定められていました。
線路等級 | 最小曲線半径 |
---|---|
1級線 | 800m(400m) |
2級線 | 600m(300m) |
3級線 | 400m(250m) |
4級線 | 300m(200m) |
側線 | 160m(120m、機関車が入線しない場合は100m) |
これは、大元をたどると1950年代に線路の新設改良時の基準として、当時のそれぞれの線区の最高速度(線路種別特甲線95km/h、甲線90km/h、乙線85km/h、丙線75km/h)から減速することなく通過できるような曲線として定められたものです。その後、前記のとおりいずれの線区も最高速度の引上げがありましたが、この曲線の規格に変更はありませんでした。このため、東北本線など1950年代以降に大規模な改良が行われた主要幹線では現在でも95km/h制限のカーブが多くみられます。一方、やむを得ない場合は従来の基準であるカッコ内の曲線半径によることもできると定められました。
勾配については次のように定められていました。
線路等級 | 一般の場合 | 電車専用線路 |
---|---|---|
1級線 | 10‰ | 35‰ |
2級線 | 10‰(25‰) | 35‰ |
3級線 | 20‰(25‰) | 35‰ |
4級線 | 25‰(35‰) | 35‰ |
これもカッコ内はやむを得ない場合で、例えば東北本線藤田~越河間には2級線ながら25パーミルの勾配が存在しています。
具体的にどの線区が「何級線」に分類されているのか、一覧にしてみました。なお、1967年発行の書籍をもとにしているため、その後の新線開業は反映されていません。また、JR化後は線路等級に代わる社内規格が制定されていたり、各線区の個別の事情に合った設備とされている可能性もあり、あくまで目安としてご覧ください。
※「線路種別」の一覧は、日本国有鉄道建設規程(1985年時点)別表第一をご覧ください。
1級線
線路名称 区間 東海道線 東海道本線 東京・神戸間
(東京・横浜間の電車線および南荒尾(信)・垂井・関ケ原間(垂井線)ならびに鶴見・平塚間、名古屋・稲沢間および茨木・宮原(操)分離点間の貨物線を除く)山陽線 山陽本線 神戸・門司間
(兵庫・鷹取間および海田市・広島間の貨物線を除く)東北線 東北本線 上野・尾久・宇都宮間
(電車線、貨物線および回送線を除く)常磐線 日暮里・水戸間 高崎線 大宮・高崎間 鹿児島線 鹿児島本線 門司・博多間
(東小倉・小倉間(日豊線用)および貨物線を除く)備考 区間の欄における「(信)」は信号場を、「(操)」は操車場を示す 以下第3号までにおいて同じ
2級線
線路名称 区間 東海道線 東海道本線 東京・横浜間 電車線
品川・汐留間 貨物線
蛇窪(信)・大崎間 貨物線
目黒川(信)・鶴見間 貨物線
鶴見・平塚間 貨物線
名古屋・稲沢間 貨物線
名古屋・笹島間 貨物線
茨木・宮原(操)分離点・塚本間 貨物線
吹田(操)・梅田間 貨物線根岸線 横浜・磯子間 横須賀線 大船・久里浜間 大阪環状線 大阪・天王寺・大阪間 桜島線 西九条・桜島間 北陸線 北陸本線 米原・直江津間 中央線 中央本線 東京・甲府間
多治見・名古屋間山陽線 山陽本線 海田市・広島間 貨物線 宇野線 岡山・宇野間 関西線 関西本線 名古屋・四日市間 阪和線 天王寺・東和歌山間 東北線 東北本線 宇都宮・青森間
(浦町・青森(操)・青森間の貨物線および回送線を除く)
東京・田端・赤羽間 電車線
東京・日暮里間 回送線
田端操・大宮間 貨物線山手線 品川・田端間 電車線
池袋・赤羽間 電車線
品川・田端間 貨物線常磐線 水戸・岩沼間 上越線 高崎・宮内間 奥羽線 奥羽本線 秋田・青森間 羽越線 羽越本線 新津・秋田間 白新線 新発田・上沼垂(信)間 信越線 信越本線 高崎・長野間
直江津・新潟間総武線 総武本線 御茶ノ水・千葉間 鹿児島線 鹿児島本線 門司港・門司間
東小倉・小倉間(日豊線用)
博多・八代間
(博多・竹下間の回送線を除く)
門司・小倉間 貨物線
八幡・折尾間 貨物線長崎線 長崎本線 鳥栖・長崎間 日豊線 日豊本線 小倉・大分間 筑豊線 筑豊本線 若松・飯塚間 函館線 函館本線 函館・長万部間
大沼・渡島砂原・森間
小樽・旭川間千歳線 苗穂・沼ノ端間 室蘭線 室蘭本線 長万部・岩見沢間
東室蘭・室蘭間
(志文・岩見沢間の貨物を除く)根室線 根室本線 滝川・富良野間 3級線
線路名称 区間 東海道線 東海道本線 新鶴見(操)・鶴見間 貨物線
鶴見・横浜港間 貨物線
新鶴見(操)・尻手間 貨物線
川崎・塩浜操間 貨物線
名古屋・堀川口間 貨物線
梅小路・丹波口間 貨物線
梅田・福島間 貨物線
新大阪・宮原(操)間 回送線
塚本・宮原(操)間 回送線南武線 川崎・立川間
尻手・浜川崎間鶴見線 鶴見・扇町間 横浜線 東神奈川・八王子間 御殿場線 国府津・沼津間 伊東線 来宮・伊東間 身延線 富士・甲府間 大阪環状線 境川・大阪港間 福知山線 尼崎・福知山間 北陸線 七尾線 津幡・七尾間 高山線 高山本線 岐阜・富山間 中央線 中央本線 甲府・多治見間 青梅線 立川・氷川間
立川・西立川間 貨物線篠ノ井線 塩尻・篠ノ井間 山陽線 山陽本線 宇野線短絡線 赤穂線 相生・東岡山間 伯備線 倉敷・伯耆大山間 呉線 三原・海田市間 岩徳線 岩国・櫛ケ浜間 宇部線 小郡・宇部間
居能・宇部港間 貨物線美祢線 厚狭・長門市間 山陰線 山陰本線 京都・幡生間 舞鶴線 綾部・東舞鶴間 関西線 関西本線 四日市・湊町間
竜華(操)・杉本町間 貨物線草津線 柘植・草津間 奈良線 木津・京都間 片町線 木津・片町間
放出・吹田(操)間 貨物線
放出・竜華(操)間 貨物線阪和線 鳳・東羽衣間 紀勢線 紀勢本線 亀山・多気間
白浜・和歌山間参宮線 多気・鳥羽間 東北線 東北本線 日暮里・尾久間 回送線
日暮里・田端操間 貨物線
長町・東仙台間 貨物線
浦町・青森(操)・青森間 貨物線および回送線
水戸線短絡線常磐線 田端操・隅田川間 貨物線
南千住・隅田川間 貨物線両毛線 小山・新前橋間 水戸線 小山・友部間 日光線 宇都宮・日光間 仙石線 仙台・石巻間 横黒線 北上・横手間 釜石線 花巻・釜石間 磐越線 磐越東線 平・郡山間 磐越西線 郡山・新津間 奥羽線 奥羽本線 福島・秋田間
滝内(信)・青森(操)間 貨物線信越線 信越本線 長野・直江津間
白新線短絡線総武線 総武本線 千葉・銚子間
亀戸・越中島間 貨物線
新小岩・金町間 貨物線房総東線 千葉・大網・安房鴨川間 房総西線 蘇我・木更津・安房鴨川間 成田線 佐倉・我孫子間 予讃線 予讃本線 高松・松山間 土讃線 土讃本線 多度津・高知間 鹿児島線 鹿児島本線 八代・鹿児島間 長崎線 佐世保線 肥前山口・佐世保間 大村線 早岐・諫早間 日豊線 日豊本線 大分・鹿児島間
小波瀬・苅田港間日田彦山線 城野・添田間 田川線 行橋・伊田間 筑豊線 筑豊本線 飯塚・原田間 伊田線 直方・伊田間 糸田線 金田・後藤寺間 後藤寺線 新飯塚・後藤寺間 上山田線 飯塚・上山田間 函館線 函館本線 長万部・小樽間
五稜郭・有川間 貨物線幌内線 岩見沢・幾春別間 室蘭線 室蘭本線 志文・岩見沢間 貨物線 夕張線 追分・夕張間 根室線 根室本線 富良野・釧路間 宗谷線 宗谷本線 旭川・音威子府間 石北線 石北本線 新旭川・網走間 4級線
前各号以外の線区(未成線を除く)
『鉄道土木シリーズ4 旅客駅 計画と設計』横田英男著(1967)より
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