はじめに
JR各社は、レールやバラストといった線路の維持管理のための資材を工事列車(いわゆる「工臨」)により輸送する場合があります。工臨はブルートレインの全廃後は数少ないJR旅客会社の機関車牽引列車となったこともあり、近年鉄道ファンの間で人気を集めています。しかし、JR旅客会社の保有する機関車の削減のあおりを受けて、このような機関車牽引の工臨の運転も減少する傾向にあります。
なかでもJR東海は2013年までに機関車を全廃し、他社からの直通を含めて機関車牽引の列車を消滅させました。一方で、レール輸送は2007年に導入した事業用気動車であるキヤ97系により実施しており、「気動車」による運行となりながらも本記事執筆時点でも工臨による輸送が継続しています。
JR東海管内で使用されるレールの多くは名古屋港駅隣接のJR東海名古屋資材センターから発送されていました。この「名古屋港駅」は地下鉄の駅ではなく、その近隣にあった東海道本線貨物支線(通称「名古屋港線」)の駅です。レールを積載したキヤ97系は同駅から各地の現場まで運行されるのですが、名古屋港線はJR貨物の貨物専用路線のため、キヤ97系は自力走行ではなくJR貨物のディーゼル機関車の牽引で「貨物列車」として名古屋駅まで移動し、そこから自力走行の「工臨」として目的地へ向かっていました。
蛇足ですが、レールやバラストといった資材は旧国鉄時代には事業用貨物として貨物列車により輸送していたところ、分割民営化により線路を所有する旅客会社と貨物列車を運行する貨物会社が分離されたことから、貨物列車ではなく旅客会社が運行する「工事列車」に衣替えしたものです(JR貨物が管理する貨物駅構内のレール等を輸送する列車は、現在でも貨物列車として運行されています)。名古屋港線の事例は、旅客会社のレールが貨物列車によって輸送されていたという意味では、旧国鉄時代の輸送形態を残していたものといえるかもしれません。
このような名古屋港線でのレール輸送も2024年3月までに終了し、これに伴い名古屋港線も2024年4月1日に廃止されました。かわりに、JR東海の自社線内である笠寺駅にレールの積替設備が新設されましたので、本記事でレポートさせていただきます。