笠寺駅のレール積替設備

笠寺駅のレール積替設備

はじめに

JR各社は、レールやバラストといった線路の維持管理のための資材を工事列車(いわゆる「工臨」)により輸送する場合があります。工臨はブルートレインの全廃後は数少ないJR旅客会社の機関車牽引列車となったこともあり、近年鉄道ファンの間で人気を集めています。しかし、JR旅客会社の保有する機関車の削減のあおりを受けて、このような機関車牽引の工臨の運転も減少する傾向にあります。

レール輸送用の工臨(イメージ)
レール輸送用の工臨(イメージ)

なかでもJR東海は2013年までに機関車を全廃し、他社からの直通を含めて機関車牽引の列車を消滅させました。一方で、レール輸送は2007年に導入した事業用気動車であるキヤ97系により実施しており、「気動車」による運行となりながらも本記事執筆時点でも工臨による輸送が継続しています。

名古屋港駅構内(2016年6月撮影)
名古屋港駅構内(2016年6月撮影)
キヤ97形(イメージ)
キヤ97形(イメージ)

JR東海管内で使用されるレールの多くは名古屋港駅隣接のJR東海名古屋資材センターから発送されていました。この「名古屋港駅」は地下鉄の駅ではなく、その近隣にあった東海道本線貨物支線(通称「名古屋港線」)の駅です。レールを積載したキヤ97系は同駅から各地の現場まで運行されるのですが、名古屋港線はJR貨物の貨物専用路線のため、キヤ97系は自力走行ではなくJR貨物のディーゼル機関車の牽引で「貨物列車」として名古屋駅まで移動し、そこから自力走行の「工臨」として目的地へ向かっていました。

蛇足ですが、レールやバラストといった資材は旧国鉄時代には事業用貨物として貨物列車により輸送していたところ、分割民営化により線路を所有する旅客会社と貨物列車を運行する貨物会社が分離されたことから、貨物列車ではなく旅客会社が運行する「工事列車」に衣替えしたものです(JR貨物が管理する貨物駅構内のレール等を輸送する列車は、現在でも貨物列車として運行されています)。名古屋港線の事例は、旅客会社のレールが貨物列車によって輸送されていたという意味では、旧国鉄時代の輸送形態を残していたものといえるかもしれません。

このような名古屋港線でのレール輸送も2024年3月までに終了し、これに伴い名古屋港線も2024年4月1日に廃止されました。かわりに、JR東海の自社線内である笠寺駅にレールの積替設備が新設されましたので、本記事でレポートさせていただきます。

笠寺駅のレール積替設備

東海道本線配線略図(2023年7月現在・抜粋)
東海道本線配線略図(2023年7月現在・抜粋)

笠寺駅は3面4線(外側の相対式ホームと内側の島式ホーム)の配線で、駅西側に旅客ホームに面していない貨物列車の着発線や側線が広がっています。今回レール積替設備が設置されたのは貨物用の線路のさらに西側の、以前は保守用車の留置線が広がっていたスペースです。

笠寺駅のレール積替設備
笠寺駅のレール積替設備
門型クレーンと留置中のキヤ97系
門型クレーンと留置中のキヤ97系
東海道本線配線略図(2024年7月現在・抜粋)
東海道本線配線略図(2024年7月現在・抜粋)

敷地中央にはコンクリート製のプラットホームと大型クレーン、荷役線が設けられています。クレーンの下には定尺レールの在庫が40本ほど保管されています。

留置中のキヤ97形
留置中のキヤ97形
引上線方向を見る
引上線方向を見る

レール荷役線にはちょうどキヤ97系1編成が停車していました。このあとレールを積載して工事現場などへ向かうものと思われます。なお、JR東日本吾妻線の小野上駅の事例とは異なり、荷役線は着発線を兼ねておらず、レール積載後のキヤ97系は入換で着発線に移動したあとに笠寺駅を出発していくことになります。

プラットホームへの通路
プラットホームへの通路
積替設備の車両出入口
積替設備の車両出入口

プラットホームには、レールを搬入するトラックの出入り口が設けられています。出入口は国道23号に接続する片側1車線の道路の突き当りに設けられており、車体長の長いトラックでも容易にアクセスできるように工夫されているようでした。

名古屋港線の廃止は残念でしたが、鉄道車両によるレール輸送はこれからも続いていくようです。JR東日本でもキヤE195系・GV-E197系の導入や水郡線西金駅や吾妻線小野上駅のように工臨による資材輸送のための設備投資が行われる例が続いており、これからも新しい時代の「工臨」の姿に注目していきたいです。

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