※本記事では法律の話題を扱っています。本記事の内容はあくまで雑学の類としてとらえていただき、ご自身が現実に遭遇した事件については弁護士などの専門家にご相談ください。また、掲載している条文は記事執筆時点のものです。
清音駅の掲示
先日井原鉄道の清音駅に行った際、このような掲示を見かけました。
営業時間
7:00~8:55
9:25~10:25
10:40~12:15
13:05~13:30
14:00~14:30
15:00~16:20
16:45~18:20
営業時間が細かく分割されており、窓口の一時閉鎖が1日6回・計3時間に及びます。
実はこのように駅窓口の営業時間が細切れとなっている例はJR・三セク問わず全国各地にあるようです。
なぜこのような営業時間になっているのでしょうか。理由としては、運転扱いを行っている場合と、本当に細切れに休憩を取っている場合が考えられます。
運転扱いを行っている場合
駅窓口の係員が入換作業のための要員や運転保安の要員を兼ねている場合、列車の発着や入換作業にあわせて駅窓口が閉鎖される場合があります。一般人が駅窓口に用事があるのはふつう列車が発着する時なので旅客にとっては迷惑至極な話ですが、特にローカル線の駅では人員が削減されているので致し方ありません。
例えば、名松線家城駅の窓口閉鎖時間を列車の発着時刻と対照させると次のようになっています(駅窓口営業時間はJR東海公式サイト、列車時刻はJR時刻表より。回送列車の時刻はこちらのサイトを参考にさせていただきました)。
窓口閉鎖時間 | 下り列車 | 上り列車 |
---|
~5:30 | 5:16頃(回送) | |
5:50~6:00 | | |
6:15~7:00 | 6:23頃(回送・家城行)、6:46頃(回送・家城始発) | 6:30(家城行)、6:38(家城始発) |
7:15~7:35 | | |
8:00~9:30 | 8:11(家城行)、8:25(家城始発) | 8:05(家城行)、8:19(家城始発) |
9:55~10:30 | 10:28 | 10:22 |
11:00~11:35 | | |
11:55~13:10 | 12:23 | 12:17 |
13:35~14:20 | 13:59 | 13:53 |
14:30~14:40 | | |
15:35~17:20 | 16:01 | 15:55 |
17:40~18:10 | 18:08 | 18:02 |
18:40~19:55 | 19:51 | 19:45 |
20:20~ | 22:04(家城行) | 22:14頃(回送)、22:58頃(回送・家城始発) |
このように、駅窓口の閉鎖時間の多くが列車の発着と重なっていることが分かります。これは、名松線で非自動閉塞方式(松阪~家城間は票券閉塞式、家城~伊勢奥津間はスタフ閉塞式)が採用されているため、列車の発着のたびに駅員による運転取り扱いが必要となるためです。さらに、駅窓口が始発列車の1時間前である朝5時30分から開いている理由も、早朝の回送列車の運転取り扱いを行うため既に駅員が起床していることと関連があると思われます。票券閉塞式の松阪~家城間の運転取り扱いを行うためには、家城駅の駅員は夜23時33分に松阪駅に回送列車が到着するまで起きていなければならないうえ朝4時35分に松阪駅を回送列車が発車するまでには起床する必要があります。
なお、朝5:50~6:00など列車が発着しないのに窓口が閉鎖される時間がありますが、これは駅員の休憩時間及び交代に伴うものだと思われます。
本当に細切れに休憩を取っている場合
しかしながら、清音駅や玉造温泉駅を含む多くの駅ではCTCなどが導入済みであり、入換作業等がなければ駅で運転取り扱いを行うことはありません。また、そもそも醒ケ井駅や柏原駅は簡易委託駅であり、駅員が運転取り扱いをすることができません。これらの駅では、どのような理由で営業時間が変則的になっているのでしょうか。
もちろんこのような駅がすべてそうだという訳ではないと思いますが、考えうる理由として本当に駅員が細切れに休憩を取っているという可能性が考えられます。といっても、かつての某官庁のように労働組合が難癖をつけて休憩時間を多くしているのではありません。きちんと利用客目線の理由があります。
駅が最も混雑するのは朝夕の通勤通学ラッシュ時なので、利用者にとっては両方の時間帯に窓口が開いていることが望ましいです。一方で、労働基準法により1人の人間が労働できるのは1週間あたり40時間、1日あたり8時間までと定められており(32条)、さらに労働時間6時間以上の場合は45分以上、8時間以上の場合は1時間以上の休憩を取らせる義務もあります(34条)。朝7時から夜6時までの11時間窓口を開け続けるためには、たとえば7時~16時と9時~18時で働く2人の人間に交互に休憩を取らせる必要がありますが、ローカル線の駅で駅員を毎日2人置くのにはコストがかかります。かといって、駅員を削減し無人駅とすることも難しい場合もあるでしょう。
ここで、法律に抜け穴があります。労働基準法には1日の労働時間の上限と休憩時間の下限について定められていますが、休憩時間の長さの上限や休憩の回数について規定はありません。さらに、休憩時間は労働時間に含まれません(32条)。すると、次のように休憩時間を活用することで朝7時から夜6時まで人員1人で駅窓口を開けることができます。
- 朝7時に出勤し、窓口を開ける
- 列車のない時間帯にこまめに窓口を閉鎖して休憩を合計3時間取り、休憩を除いた労働時間が8時間に収まるようにする
- 午後6時に窓口を閉めて退勤する
朝夕のラッシュ時間帯に窓口が開いているのは、利用客にとってはありがたいです。一方で、鉄道会社にとっても人件費を大幅に削減することができます。難点としては、駅員にとっては列車の発着の合間に15分程度ずつ休憩があったところで控室でテレビやスマホを見るくらいしかすることができず、実質的に長時間拘束されているのと同じです。ローカル線の駅において利用客の利便性と人件費削減を両立するための"必要悪"なのかもしれませんが、あまりやりすぎると"脱法"という批判を受けるかもしれません。
実際、先に挙げた駅で窓口の実質の営業時間を比較してみます。先述の井原鉄道の例では、窓口の営業時間11時間20分のうち一時閉鎖が合計3時間あり、差し引くと実質の営業時間は8時間20分となります。醒ケ井駅、柏原駅、玉造温泉駅の実質営業時間はそれぞれ8時間45分、7時間10分、7時間35分となります(窓口営業終了後の売上金点検などの作業も必要になるため駅員の労働時間はこれよりさらに長くなることになります)。営業時間が8時間を超えている駅では、(もちろん途中で駅員が交代している可能性もありますが)時間外手当を支払って時間外労働をしているか、休日を増やす等で1週間あたりの労働時間を40時間に収めている可能性があります。
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