はじめに
かつて北海道や九州北部では石炭炭鉱が林立し、日本の産業を支えていました。炭鉱には国鉄の駅から引き込み線が敷設され、貨物列車が石炭車を連ねて船舶への積み替え設備を備えた港まで石炭を輸送していました。石炭から石油へのエネルギー革命、さらに国内の人件費上昇や坑道内での事故の多発を受けて国内の炭鉱の大半は閉山し、石炭を輸送する貨物列車も2020年までに廃止されています。
かつて石炭を輸送していた路線のうちいくつかは現在でも残っています。例えば筑豊本線や常磐線、室蘭本線はかつて石炭貨物列車が多数往来した路線として知られています。
これらの路線の多くは明治・大正時代から複線化されています。理由として考えられるのが、線路容量の問題です。単線では交換可能駅で列車交換が必要になるため、石炭を満載した貨物列車はもちろん炭鉱の設置で増加した沿線人口の足となる旅客列車も運転されるこれらの路線では、単線のままでは線路容量が不足する自体も考えられます。実際、筑豊本線は貨物列車や地域輸送の普通列車のほか関西方面と熊本・佐世保方面を直方経由で結ぶ長距離優等列車の設定があり、複線だけでは列車を捌ききれなかったのか中間~折尾間は一時複々線化されていました。現在でも中間駅の両開き分岐器にその名残がみられます。
ただ、国鉄時代の1968年10月改正時点でも室蘭本線苫小牧~岩見沢間を通しで運転される旅客列車はわずか7往復、夕張線への直通や区間列車を含めても13往復で、日中には列車間隔が数時間空く時間もありました。
室蘭本線 旅客列車時刻表(『ダイヤエース時刻表昭和43年10月号復刻版』をもとに作成)下り |
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列車番号 | 列車名 | 始発 | 苫小牧発 | 追分着 | 追分発 | 岩見沢着 | 行先 |
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2721D | | 苫小牧 | 5:06 | 5:36 | 5:46 | = | 夕張 |
824レ | | 追分 | | | 6:16 | 7:13 | 札幌(岩見沢経由) |
221レ | | 苫小牧 | 6:08 | 6:51 | 6:55 | 7:57 | 岩見沢 |
712D | 急行夕張1号 | 夕張 | = | 8:18 | 8:23 | 9:04 | 札幌(岩見沢経由) |
223レ | | 室蘭 | 8:01 | 8:43 | 8:47 | 9:41 | 岩見沢 |
2854D | | 夕張 | = | 9:43 | 9:47 | 10:36 | 札幌(岩見沢経由) |
225レ | | 室蘭 | 10:06 | 10:52 | 10:58 | 11:55 | 岩見沢 |
227レ | | 室蘭 | 13:19 | 14:03 | 14:10 | 15:10 | 岩見沢 |
2733D | | 苫小牧 | 14:56 | 15:32 | 15:36 | = | 夕張 |
229レ | | 函館 | 16:27 | 17:14 | 17:21 | 18:19 | 岩見沢 |
2702D | 急行夕張2号 | 夕張 | = | 18:44 | 18:52 | 19:38 | 札幌(岩見沢経由) |
231レ | | 室蘭 | 18:51 | 19:39 | 19:43 | 20:40 | 岩見沢 |
233レ | | 室蘭 | 21:13 | 21:56 | 21:58 | 22:51 | 岩見沢 |
上り |
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列車番号 | 列車名 | 始発 | 岩見沢発 | 追分着 | 追分発 | 苫小牧着 | 行先 |
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224レ | | 岩見沢 | 5:49 | 6:48 | 6:56 | 7:43 | 室蘭 |
2724D | | 夕張 | = | 8:35 | 8:38 | 9:15 | 苫小牧 |
711D | 急行夕張1号 | 札幌(岩見沢経由) | 8:16 | 8:56 | 9:01 | = | 夕張 |
226レ | | 岩見沢 | 9:13 | 10:18 | 10:21 | 10:06* | 長万部 |
228レ | | 岩見沢 | 12:02 | 12:58 | 13:00 | 13:42 | 室蘭 |
230レ | | 岩見沢 | 13:47 | 14:44 | 14:48 | 15:29 | 室蘭 |
232レ | | 岩見沢 | 16:23 | 17:22 | 17:28 | 18:15 | 室蘭 |
829レ | | 札幌(岩見沢経由) | 18:34 | 19:33 | | | 追分 |
2736D | | 夕張 | | 19:40 | 19:41 | 20:17 | 苫小牧 |
2701D | 急行夕張2号 | 札幌(岩見沢経由) | 19:09 | 19:47 | 19:52 | = | 夕張 |
234レ | | 岩見沢 | 19:44 | 20:44 | 20:50 | 21:34 | 室蘭 |
2865D | | 小樽(札幌・岩見沢経由) | 20:54 | 21:51 | 21:59 | | 夕張 |
236レ | | 岩見沢 | 21:56 | 22:59 | 23:05 | 23:48 | 苫小牧 |
* 226レの苫小牧着時刻は原典には10:06と記載されていますが、11:06の誤りと思われます。
はたして、同区間を複線化させなければならないほど線路容量が逼迫していたのでしょうか?
室蘭本線の貨物列車の運転本数
そこで、上の時刻表とは少々時期が異なりますが、1970年時点での貨物列車の時刻表を調べてみました。
室蘭本線 貨物列車時刻表(『貨物時刻表 昭和45年10月現行』をもとに作成)下り |
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列車番号 | 列車名 | 始発 | 苫小牧発 | 追分着 | 追分発 | 岩見沢着 | 行先 |
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255レ | 専用普通貨物 | 本輪西 | (0:06) | (1:02) | (1:08) | (2:37) | 永山 |
2471レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 0:30 | (1:20) | (1:56) | (3:37) | 赤平 |
2479レ | 専用普通貨物 | 室蘭 | (0:57) | 1:51 | 2:51 | (4:01) | 芦別 |
3561レ | (地)きたみ3号 | 東室蘭 | 1:54 | (2:55) | (2:59) | 4:12 | 北見 |
2763レ | 専用普通貨物 | 東室蘭 | (2:08) | 3:05 | 3:40 | = | 夕張 |
2661レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 2:50 | (3:38) | (3:44) | 5:03 | 幾春別 |
263レ | | 五稜郭 | (2:58) | (3:58) | (4:07) | 5:27 | 北旭川 |
291レ | | 追分 | | | 4:15 | 8:19 | 岩見沢 |
275レ | | 苫小牧 | 3:24 | (4:27) | (5:13) | 6:37 | 岩見沢 |
1461レ | | 五稜郭 | 3:46 | 4:46 | 5:40 | 6:48 | 釧路 |
251レ | 専用普通貨物 | 東室蘭 | (4:16) | 5:57 | 6:30 | | 栗山 |
8281レ | | 苫小牧 | 5:32 | 6:27 | 7:02 | 9:00 | 岩見沢 |
2663レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 6:20 | 7:10 | 7:28 | (8:31) | 幾春別 |
6271レ | | 東室蘭 | 6:33 | (7:34) | (8:30) | 10:07 | 岩見沢 |
9663レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 7:35 | 8:23 | | | 追分 |
2765レ | 専用普通貨物 | 室蘭 | (7:41) | 8:36 | 9:16 | = | 夕張 |
8277レ | | 五稜郭 | (8:21) | 9:24 | 10:22 | 11:34 | 岩見沢 |
2977レ | 専用普通貨物 | 追分 | | | 9:00 | | 栗山 |
2281レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 9:56 | 10:44 | 11:12 | (12:40) | 砂川 |
2767レ | 専用普通貨物 | 室蘭 | (10:26) | 11:20 | 11:45 | = | 夕張 |
261レ | | 五稜郭 | (10:42) | (11:39) | (11:49) | (13:27) | 北旭川 |
7475レ | 専用普通貨物 | 東室蘭 | 11:18 | 12:13 | 12:48 | (14:00) | 芦別 |
293レ | | 東室蘭 | 12:14 | 13:58 | | | 追分 |
267レ | | 苫小牧 | 12:30 | 13:19 | 13:48 | (14:49) | 北旭川 |
6285レ | | 函館 | (12:53) | (14:23) | (14:45) | 16:05 | 岩見沢 |
3253レ | | 五稜郭 | 13:55 | 14:56 | 15:28 | 16:57 | 北旭川 |
2667レ | 専用普通貨物 | 東室蘭 | (14:23) | 15:18 | 15:55 | (17:55) | 幾春別 |
2769レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 14:55 | 16:04 | 16:16 | = | 夕張 |
295レ | | 追分 | | | 16:31 | 21:40 | 岩見沢 |
3465レ | (地)くしろ1号 | 五稜郭 | (16:07) | 17:05 | 18:01 | (19:25) | 釧路 |
299レ | | 東室蘭 | 16:28 | 18:56 | | | 追分 |
257レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 16:54 | (17:43) | (18:23) | 19:36 | 北旭川 |
561レ | | 苫小牧 | 17:41 | 18:32 | 18:54 | (20:16) | 遠軽 |
2979レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 18:17 | 19:02 | 19:22 | | 栗山 |
265レ | | 五稜郭 | (18:43) | 19:36 | 20:44 | 21:58 | 旭川 |
1293レ | | 苫小牧 | 19:21 | 21:20 | | | 追分 |
2285レ | 専用普通貨物 | 本輪西 | 19:34 | (20:29) | (21:08) | (22:46) | 砂川 |
253レ | 専用普通貨物 | 本輪西 | (20:58) | (21:53) | (22:07) | (23:21) | 新旭川 |
3255レ | (地)あさひ3号 | 苫小牧 | 21:32 | (22:20) | (22:36) | (23:42) | 北旭川 |
469レ | | 五稜郭 | (21:44) | 22:43 | 23:35 | (0:56) | 釧路 |
3251レ | (地)あさひ1号 | 東室蘭 | (22:09) | (23:03) | (23:08) | (0:30) | 北旭川 |
2477レ | 専用普通貨物 | 苫小牧 | 22:41 | (23:29) | (0:08) | (1:17) | 芦別 |
467レ | | 東室蘭 | 23:14 | (0:00) | (0:22) | (1:39) | 帯広 |
3463レ | (地)くしろ2号 | 東室蘭 | 23:36 | 0:31 | 1:32 | (2:54) | 釧路 |
上り |
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列車番号 | 列車名 | 始発 | 苫小牧発 | 追分着 | 追分発 | 岩見沢着 | 行先 |
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9974レ | 専用普通貨物 | 追分 | | | 2:10 | (3:08) | 室蘭 |
266レ | | 北旭川 | (1:24) | (2:59) | (3:30) | (4:23) | 五稜郭 |
9478レ | 専用普通貨物 | 芦別 | (0:35) | 2:01 | 2:45 | 3:42 | 苫小牧 |
456レ | 専用普通貨物 | 池田 | (1:00) | 2:23 | 3:00 | 3:57 | 苫小牧 |
7478レ | 専用普通貨物 | 芦別 | (1:48) | 3:13 | 3:40 | (4:36) | 室蘭 |
296レ | | 岩見沢 | 2:13 | 5:59 | 7:38 | 10:15 | 東室蘭 |
3362レ | (地)むろらん | 名寄 | (2:36) | (3:49) | (3:54) | 4:43 | 東室蘭 |
254レ | 専用普通貨物 | 新旭川 | (3:00) | (4:10) | (4:40) | (5:33) | 本輪西 |
1272レ | | 岩見沢 | 3:19 | (4:55) | (5:04) | (5:56) | 東室蘭 |
1274レ | | 岩見沢 | 3:59 | (5:23) | (5:28) | 6:21 | 苫小牧 |
2470レ | 専用普通貨物 | 芦別 | (4:08) | 5:36 | 6:13 | 7:10 | 苫小牧 |
8268レ | | 岩見沢 | 4:36 | 6:29 | 7:24 | (8:21) | 東室蘭 |
1354レ | | 稚内 | (5:34) | レ | (6:38) | (7:24) | 五稜郭 |
1454レ | | 釧路 | (6:40) | (7:50) | (8:01) | (8:47) | 五稜郭 |
250レ | 専用普通貨物 | 北旭川 | (6:50) | レ | (8:10) | 8:57 | 苫小牧 |
564レ | | 網走 | (7:38) | (8:58) | (9:15) | 10:06 | 五稜郭 |
558レ | 専用普通貨物 | 北見 | (8:19) | (9:53) | (9:57) | 10:47 | 苫小牧 |
6274レ | | 岩見沢 | 8:30 | (10:50) | (10:57) | (11:49) | 東室蘭 |
298レ | | 岩見沢 | 9:26 | 13:25 | 14:20 | 16:17 | 東室蘭 |
1356レ | | 稚内 | (9:47) | (11:08) | (11:22) | (12:11) | 五稜郭 |
1276レ | | 岩見沢 | 10:20 | (12:03) | (12:08) | 13:00 | 東室蘭 |
2972レ | 専用普通貨物 | 栗山 | | 11:41 | 12:30 | (13:26) | 東室蘭 |
262レ | | 北旭川 | (11:15) | (12:37) | (12:42) | (14:01) | 五稜郭 |
1452レ | | 釧路 | (12:28) | レ | (13:32) | (14:17) | 五稜郭 |
460レ | | 帯広 | (12:48) | (14:07) | (14:12) | 15:10 | 五稜郭 |
1278レ | | 岩見沢 | 13:18 | 16:00 | 16:40 | (17:36) | 東室蘭 |
7770レ | 専用普通貨物 | 追分 | | | 13:42 | 15:45 | 東室蘭 |
2760レ | 専用普通貨物 | 夕張 | = | 15:25 | 15:58 | 16:57 | 苫小牧 |
562レ | | 北見 | (13:59) | (15:06) | (15:19) | (16:07) | 五稜郭 |
2662レ | 専用普通貨物 | 幾春別 | (14:12) | 16:25 | | | 追分 |
2762レ | 専用普通貨物 | 夕張 | = | (16:55) | (17:07) | 18:04 | 室蘭 |
2472レ | 専用普通貨物 | 芦別 | (14:44) | 17:10 | 17:40 | (18:37) | 東室蘭 |
3466レ | (地)はこだて3号 | 釧路 | (15:20) | (16:39) | (16:49) | (17:50) | 五稜郭 |
2284レ | 専用普通貨物 | 砂川 | (15:41) | 17:49 | 18:11 | 19:08 | 苫小牧 |
1290レ | | 岩見沢 | 16:28 | 20:34 | | | 追分 |
2664レ | 専用普通貨物 | 幾春別 | (17:25) | 18:54 | 19:55 | 20:52 | 苫小牧 |
462レ | | 釧路 | (18:00) | (19:10) | (19:15) | (20:04) | 五稜郭 |
2764レ | 専用普通貨物 | 夕張 | = | 20:43 | 21:20 | (22:17) | 東室蘭 |
2474レ | 専用普通貨物 | 芦別 | (19:22) | 21:17 | 21:52 | 22:49 | 東室蘭 |
256レ | 専用普通貨物 | 北旭川 | (19:58) | レ | (21:03) | 21:49 | 苫小牧 |
2286レ | 専用普通貨物 | 砂川 | (20:26) | 22:13 | 23:15 | (0:12) | 本輪西 |
264レ | | 旭川 | (21:08) | (22:21) | (22:27) | 23:18 | 五稜郭 |
6278レ | | 岩見沢 | 22:01 | (23:55) | (0:01) | (0:52) | 東室蘭 |
278レ | | 岩見沢 | 22:32 | (0:33) | (0:40) | (1:32) | 五稜郭 |
2974レ | 専用普通貨物 | 栗山 | | 22:57 | | | 追分 |
2766レ | 専用普通貨物 | 夕張 | = | (23:52) | (0:10) | 1:07 | 苫小牧 |
252レ | 専用普通貨物 | 北旭川 | (23:03) | (0:18) | (0:23) | (1:16) | 五稜郭 |
7666レ | 専用普通貨物 | 幾春別 | (23:21) | 1:26 | | | 追分 |
2288レ | 専用普通貨物 | 砂川 | (23:46) | 1:12 | 1:40 | 2:37 | 苫小牧 |
(地)は地域間急行貨物列車を表します。()内の時刻は運転停車または通過を表します。
下り44本、上り49本もの列車が通過しており、確かに線路容量から複線化が要請されたと考えられます。夕張、幾春別、砂川など石炭炭鉱の最寄り駅への貨物列車のほか、現在は石勝線を経由している帯広・釧路方面への貨物列車も岩見沢経由で運転されていました。なお、1970年といえば石炭の需要が減少し始めた時期となりますので、それ以前の時刻表ではさらに列車本数が多かった可能性もあります。
上の1968年の旅客列車のダイヤとまとめてダイヤグラムにしてみました。旅客と貨物で異なる年のダイヤを無理やり同じ図に落とし込んだ不正確なダイヤグラムなので、あくまで当時の列車運転の雰囲気を感じていただくのみとしてください。
圧倒的な列車本数です。いつ保線作業をしているのか分からないほど昼夜関係なく貨物列車が運転されていたようです。これであれば複線化されたのも納得でしょう。
室蘭本線が複線化されたもう1つの理由
室蘭本線が複線化された線路容量以外の理由が、こちらのサイトに詳しく記載されています。以下、該当サイトの記述内容をかみ砕いて説明していきたいと思います。
室蘭本線では、D50形やD51形蒸気機関車により2400t牽引の列車が運転されていました。国鉄の主力石炭貨車の1つであったセキ3000形は積車換算両数4.5両なので、単純に割り算すれば約50両編成、1編成の長さは500m近くになります。現在東海道本線で運転されている貨物列車は1300t、コンテナ車26両編成で約530mで、長さはそれほど変わらないながら倍以上の重さの列車を牽引していたことになります。
国土地理院が公開している空中写真のうち、1940~1950年代のものには当時運転されていた長大編成の貨物列車が写っています。追分駅では、現在は撤去されてしまった3番線(上り着発線)に長さ約480mの貨物列車が停車しています。東室蘭操車場でも、室蘭方面組成線である4番線に長さ600m近い列車が停車しており、列車の後方は分岐器まではみ出しています。
単線区間で列車の長さが長くなるとどのような不都合が生じるかというと、例えば交換駅の有効長も500m以上とする必要があります。現在であればそれほど難しい話ではないかもしれませんが、当時は非自動閉塞方式であり信号や分岐器の操作も手動なので、沿線の各駅を列車が発着するたびに駅員が500m離れた上下列車の運転台を往復してタブレットを受け渡したり、駅舎から数百メートル離れた分岐器のてこを人力で操作する必要があり、およそ現実的ではありません。
では、なぜ石炭の貨物列車はこれほど長大になったのでしょうか。まず、室蘭本線では使用される石炭車がすべて走行抵抗の小さいボギー貨車であり、さらに上記のブログにもある通り輸送区間の大部分が平坦または下り坂だったことがあります。山沿いで産出した石炭を室蘭港の積み替え設備まで運んでいたので当然と言えば当然ですが、このため2800tの長大編成をD51形単機で牽引することができました。もちろん、帰路は上り坂となってしまうのですがこのとき貨車は空車なので問題はなかったでしょう。
ちなみに、九州地区でも比較的長大な貨物列車が運転されていました。下記写真で筑豊本線の短絡線経由黒崎方面へ向かっている貨物列車は長さ約330mで約50両の貨車を連ねていますが、積車でも列車の重量は1200t程度であり北海道の貨物列車より控え目です。九州地区では2軸貨車の石炭車が使用されていたこともあって、長さのわりに1列車で運ぶ石炭の量が少なくなっています。
複線区間のその後
1960年代以降のエネルギー革命で石炭の需要は急減し、1980~90年代までに国内の炭鉱のほとんどが操業を停止しました。現在国内の鉄道で石炭を輸送する貨物列車は運転されていませんが、石炭輸送の名残は各地にみられます。
かつて石炭を輸送していた路線のうち、大正時代以前に複線化され現在も複線区間が維持されている主な例は次のようなものがあります。
- 函館本線(小樽~砂川間)
- 室蘭本線(室蘭~東室蘭、幌別~竹浦、苫小牧~追分)
- 常磐線(日暮里~いわき)
- 筑豊本線(若松~小竹)
- 平成筑豊鉄道伊田線
多くの路線はその後旅客輸送の幹線として生まれ変わり、特急列車や通勤列車の運転に複線の線路設備が生かされています。平成筑豊鉄道伊田線も国鉄末期には運転本数が17往復にまで落ち込みましたが、現在では列車本数は倍増し地域の足として生まれ変わっています。
一方で、室蘭本線の沼ノ端以北の複線区間は完全に過剰設備となっています。この区間は大正時代に沼ノ端~追分間、その後昭和に入り追分~三川間、由仁~栗丘間が複線化され、志文~岩見沢間は岩見沢駅に直行する線路と岩見沢操車場を経由する線路の単線並列となりました。国鉄が民営化された後、志文~岩見沢間の単線並列は単線に戻され、栗山~栗丘間はトンネル崩落に伴い下り線が放棄され単線となりました。しかし、残る区間はあいかわらず複線の過剰設備のままです。複線自動閉塞式の閉塞信号機が律儀に2km間隔で植えられた線路を通るのは1日8.5往復の普通列車と下り1本、上り5本の貨物列車のみとなりました。
室蘭本線のこの区間はJR北海道により当社単独では維持することが困難な線区に指定されており、資料では「複線区間など石炭輸送全盛期の過大な鉄道設備が残っております」と言及されています。今後の動向にも注目しています。
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